酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第77回「津軽三味線が鳴り響く弘前の夜」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第77回「津軽三味線が鳴り響く弘前の夜」である。
はじめに
津軽半島へのひとり旅を語れば、きっと時が経つのを忘れてしまうほど語り続けるだろう。ダイナミックな海岸線の絶景を見た、太宰治の世界に触れた、美味い物を食べた、とんでもないアクシデントも発生した・・・
忘れちゃいけない。津軽三味線の魅力にもたっぷりと触れたっけ。それも酒を飲みながら。2002年の旅だったので、もう20年以上経つ。が、あの時聴いた津軽三味線のパワフルな演奏は今も忘れてはいない。
さあ、津軽に行ぐべか。
竜飛岬「ホテル竜飛」~食事処「海峡」で夕食
津軽半島へのひとり旅は2日間、レンタカーを利用した。一人なので割高になってしまうのだが、公共交通で巡るのは極めて困難なのでやむを得ない。昼酒が飲めないという欠点はあるが、小回りの利く旅ができるのがメリットなんだよ。
1泊目は竜飛岬にある「竜飛崎温泉ホテル竜飛」に宿を取った。竜飛崎といえば、石川さゆりさんの「津軽海峡冬景色」のメロディーが頭に浮かぶ。「♪北の外れ」と歌われているように、本州の北のさいはての一つだ。
今宵はホテル内の食事処「海峡」で夕食。
津軽海峡を眺める海側に席があるのが嬉しい。料理もすでにテーブルに並んでいる。魚の焼き物、刺身3点盛り、生ウニ、ホヤ、しめ鯖入り酢の物、ウニ入り茶碗蒸し、ホタテとフキの炊き合わせ、鮨・・・かなり豪華だぞ。
ならば地酒を頼もう。おいらせ町の桃川酒造ねぶた純米酒をいただく。酒を一杯飲んだところで改めてテーブルを見る。ホタテ、イカ、アワビ、サザエが網の上に乗っている。これは豪快な網焼きだな。早速火を付けてもらおう。焼き上がりが楽しみだ。
と、いきなりアワビが弾け飛んだ!
これぞまさしく踊り食い。思わず笑ってしまう。それにしても料理が多い。ふだんは2、3品くらいしか注文しないからなあ。これで終わりかと思いきや、さらに茹でズワイガニが出てきたのには二度ビックリ。
夕食で腹いっぱいになった。どこかで飲みたいと思っても、さいはての岬に飲み屋があるはずがない。部屋に戻ってワンカップ酒を飲みながら、ぼんやりと夜景を眺める。海にはイカ釣り漁船、そして対岸の北海道の灯り・・・
そろそろ眠くなってきたよ。
弘前「山唄」~津軽三味線ライブに酔いしれて
2日目の夕方、レンタカードライブの到着地・弘前に無事着いた。レンタカーを返却し、ホテルにチェックインしたら夜の飲み歩きへ急ごう。
本日1軒目の酒場はライブハウス「山唄」だ。ここは絶対に外せない。なぜなら、津軽三味線のライブを聴きながら食事(酒)ができるから。それゆえに観光客の人気も高く、下手をすると満席になってしまう恐れがある。
店内はほぼ埋まっていたが、辛うじて2階席の一角に案内してもらえた。安心したところで酒を頼もう。店オリジナルの純米酒「山唄」と、塩辛、ホヤの刺身、それから「けやぐ煮」を注文する。
けやぐ煮は郷土料理とのことだが、出てきたのはイカの輪切りにミックスベジタブルを詰めたもので、正直期待外れだった。まあいい。ホヤと塩辛があるからな。
三味線ライブの時間がやって来た。
この店は、地元で津軽三味線の第一人者と言われている山田千里さんが経営しており、お弟子さんが修行をしながら、店員としても働いている。もちろんライブの出演者はお弟子さんたち。なかにはチャンピオンを張る実力者もいる。
7人のセッションによるオープニングの曲弾き。これは店内にバチの音が響き渡る迫力満点の演奏。私を含むお客は最初から圧倒されてしまう。津軽三味線は哀愁漂う音色だと思っていたが、セッションはその印象を見事に覆してくれた。
ステージでは演者が交代しながら演奏を聴かせてくれる。とりわけ男女のチャンピオンが奏でる津軽三味線は「素晴らしい」の一言に尽きる。気がついたら飲むのも食べるのも忘れ、しばし聴き入ってしまったよ。
なお「山唄」だが、山田さんが亡くなったこともあり、2016年に惜しまれつつも閉店したそうである。再来訪が果たせず残念だが仕方ない。
弘前「わいわい」~じょっぱり兄さんと寒さ談義
三味線ライブの余韻を引きずりながら、次の店へと移る。やって来たのは居酒屋「わいわい」。「山唄」は観光客らで大賑わいだったが、こちらは地元客中心にホドホドのお客さんで、腰を落ち着けて飲めそうだ。では、カウンターに陣取るとするか。
六花酒造「じょっぱり」の生貯蔵酒とイカの肝付き刺身をいただく。イカ刺し自体はさほど珍しくもないが、肝付きとなれば新鮮さが命である。肝の持ち味である苦みがイカの身とマッチしていて、これは酒がどんどん進むな。
津軽地方の冬の寒さはハンパではないというところから、板前の兄さんと話が弾む。寒さということでは、私の住む長野県諏訪も負けてはいない。何しろ、あの広大な諏訪湖が全面結氷するくらいだ。
「本州で諏訪より寒い地域はない」と自慢してみた。
だが兄さんは「弘前の方が寒いですよ」と言い張る。確かに雪の量は圧倒的に多いかもしれないが、寒さはどうだろう。議論好きの信州人とじょっぱりの津軽人。「どっちが寒い」談義はしばし続いていくのだった(笑)
追記ではないが、3日目の昼酒についてもちょっとだけ触れておく。
弘前市立観光館内にある郷土料理店「追手門」で、初雪茸というキノコの天ぷらと郷土料理「けの汁」を地酒と共にいただいた。野菜たっぷりの「けの汁」、酒にも合うし、栄養満点だったし、とても美味しかったなあ。ごちそうさま。
〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2002年10月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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