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深呼吸して空を吸い込む

いくつもの時間がたくさん流れて、いくつもの街の景色を見ながら新たな場所にたどり着いた。

育った家族は少しずつ老いを重ねていき、いつまでもたくましいと思っていた祖父母も弱っていく姿を少しずつ目にしていく。

隣では新たな家族である夫が変わらずにいてくれて、その絆は温かく深く、少しずつ2人でひとつになっている。家族計画なんて思い描いた通りに進まないけれど、きっと2人で生きるか、もう1人か2人一緒に生きるかもきっとご縁なのだと穏やかな気持ちでいられる。それはきっと夫のお蔭。そして私をこうやって生み育ててくれた両親のお蔭なのだ。

人生は選べるようで選べない。人の命は生きるようで突然に絶たれる。私を傷つけたあの人ともう1人のあの人は今でもつながって、不思議な関係性の中に曖昧な生き方でもきっといいのだろうと考えさせられる。何かを手に入れても私たちはきっと満足しないから。

秋の空はとてもやさしい。夏のような日差しを少しだけ残しながら、肌寒い風が色づく山々の紅葉の中を駆けていく。あぁ生きているって良いなぁ。あぁ生きているってつらいなぁ。日々の中で、気まぐれな秋の空のように気持ちは移ろい心が染みる。

「深く、深く深呼吸して」
「空を見上げて」

あの日の私が声をかける。穏やかな海に日差しがあたり、キラキラと光の道ができる。その上を歩いて行けそうで、私は目を細めて何度もその景色を見た。安心するいつもの友の声、わがままな無邪気さをお互いに抱きしめ合える。年を重ねても笑い合える友がいることは一番の幸せと財産だと思う。

深呼吸して空を吸い込んでみる。
新しい街に来て半年。少しのさみしさと1人の時間のつぶしかたを覚えた私は、今日も左手に見える川の流れを見つめながら日々を過ごしていく。

私は十分すぎるぐらい恵まれている。
私は悲しいぐらいにどこかいつもぽっかり穴が空いている。

だから良い。
そうやってずっと問いかけながら、私を生きていく。
深呼吸して、空を吸い込みながら。

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