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[小説] eternal charm ~試練~


(?!)

襲ってきた魔憑きを倒し一安心したのも束の間、トワは辺り一面から強い邪気を纏った大量の魔憑きの気配を感じていた。セレンとミアも数多の魔憑きの気配を感じ取り、三人は目線を合わせた。

「囲まれている。」

トワが冷静ながらも緊迫した声で言った。

「そのようだな。」

セレンは三人の周りを囲む魔憑きたちをぐるりと見回し鋭く睨みつけていた。

「戦闘開始ですね。」

ミアのこの一言で三人はそれぞれ飛び出し、魔法をくり出した。

ミアは刻印魔法という大きな魔法を使ったにも関わらず、泉の力を受け強く正確に魔法を放っていた。セレンは月の力を受け強力な魔法を次々にくり出していた。トワは無駄のない美しい魔法を放ち、魔憑きたちを圧倒していた。

しかし、強大な魔力を持ってしても、次から次へと襲ってくる魔憑きたちにたった三人で対抗することは困難を極め、一通り魔憑きを倒した頃には三人は肩で息をし、疲れ果てていた。

「これで全部か?」

セレンが周囲の気配に気を配りつつ辺りに視線を巡らせて言った。

「魔憑きたちは倒したと思う。けれど、別の強い気配を感じる。」

トワは魔憑きに囲まれた時より不安そうな面持ちで激しい胸騒ぎをどうにか鎮めようとしていた。

「黒い点が近づいてきています!」

ミアが手に持っていた地図をトワとセレンに差し出しながら言った。先ほどまで森の奥に留まっていた黒い点が三人がいる場所に向かって動いていた。

「来る。」

三人は地図から顔を上げ、魔物が現れるであろう方向を凝視した。

「ゴォォォォォ。」

魔物の影が見えた瞬間、魔物はとてつもない邪気を含んだ叫び声を上げた。周囲から生命の気配が消え、森は死の静寂に支配された。セレンとミアは以前より力を増していたため邪気に侵されることはなかったが、正常な意識を保つことに必至だった。

トワも懸命に邪気に対抗していたが、それ以上に嫌な予感を感じていた。いつの日か夢で見た地獄絵図のような光景が頭をよぎり、身体がこわばった。トワはセレンとミアを守ろうと咄嗟に三人の周りにシールドをはり、魔物の出方を待っていた。

「え?!」

トワが空間の歪みを感じた瞬間、地面がぐにゃりと曲がり、足をとられバランスを崩した。何が起こったのか理解できなかった。体勢を立て直そうとしたが身体がいうことをきかず、何かに操られているようだった。どうにか手足を動かすことはできたが自分が意図したようには動かず、身体は宙に浮き、地面が消えたようだった。どんどん闇に引き込まれ、落ちていく感覚を覚えた。





「ここは…」

セレンが目を覚ますと辺りは目を開けているのか閉じているのかわからなくなるほどの真っ暗闇だった。完全な静寂で時間が止まっているようだった。身体を起こそうとすると頭がずきりと痛んだ。どうやら気を失っていたようだ。

「トワ!ミア!」

セレンは心配になって二人の名を呼んだが、自分の声が響くだけで二人からの返事はなかった。集中して周囲の気配を感じたが、二人の気配はおろか生命の気配は全くなく、闇の気配しか感じられなかった。

セレンはトワとミアと離れ離れになったことを悟り三人を探そうと足を動かそうとしたが、身体がぴくりとも動かなかった。まるで身体が凍りついてしまったかのようだった。手に魔力を込めようとしたが、それも叶わなかった。

(トワ。ミア。)

セレンは何もできないことに無力感を感じながらも心の中でトワとミアの無事を祈った。





ミアが目を開けると、そこは漆黒の闇で覆われていた。ミアは自分の身に何が起こったのかわからず混乱していたが、周囲に人の気配がないことに気づいた。明らかな異変を感じ記憶を辿ろうとしたが、思い出そうとすればするほど頭が混乱し、うまく思い出せなかった。

「トワ様とセレン様はどこにいるの…」

ミアは暗闇の中にたった一人でいることに大きな不安と恐怖を感じた。

「トワ様!セレン様!」

ミアは力の限り叫んだが、その声はしんと静まった闇の中に響き、虚しく消えていった。誰にも助けを求められないことがこの上なく心細かった。大きな闇に怖気づき身体が小刻みに震えていた。頭が真っ白になっていく。

「あ。」

思考が失われていく中、ミアは一つの希望を見出した。光魔法を使えばこの闇を打ち消せるかもしれない。この闇から抜け出せるかもしれない。ミアは藁にも縋る思いで手に魔力を込めた。しかし、最後まで魔力を集めきらないうちに魔力が霧散してしまった。どうやらこの闇の中では魔法が使えないらしい。

「どうしよう。」

ミアはより一層不安を膨らませ、震える自分の肩を抱えて力なくその場に座り込んだ。




トワが気づいた時には周りは完全な闇だった。何の気配も感じず、何の音もしなかった。空気すら動くのをやめてしまったかのようだった。

「誰もいない。」

トワはセレンもミアも近くにいないことにすぐに気づいた。際限なく続く闇の中でたった一人だった。

自分の置かれた状況を理解しようと三人でいた時のことを思い出そうとした。ようやく魔憑きを倒したと思ったら魔物が現れ、咄嗟にシールドを張った。魔物がどう出るか構えていたら、突然妙な気配を感じて空間が歪み始め、気づいたらここにいた。

ということは魔物の力によって三人がバラバラになったのだろう。トワは一刻も早くセレンとミアの居場所を突き止めようと魔力を一点に集中させた。しかし魔物が創り出した闇の中では魔力が削られ、必要な魔力を集められず透視魔法は使えなかった。

トワは胸が締め付けられるのを感じた。セレンとミアと離れ離れで魔法も使えない。どんどん暗い感情に引きずり込まれ、もう二人に会えないのではないかとさえ思えた。

「トワ。」

誰もいないはずの闇の中から聞き慣れた声が聞こえた。声がした方に目を向けてみたが、当然人の姿は見えない。トワは魔物が幻聴を聞かせたのではないかと疑ったが、そうではなかった。

「トワ様。」

今度ははっきり分かった。ミアの声だ。セレンとミアが自分を呼んでいる。

「セレン、ミア。どこにいるの?」

トワは声を張り上げたが、返事はなかった。二人が近くに来ているわけではないようだ。

トワは一つの可能性を思いつき、目を閉じ、セレンとミアを心に浮かべた。セレンの祈りが入り込んでくる。ミアの奮励が伝わってくる。

助けなければ。そう強く思ったが、この闇の中で魔法は使えない。どうすればいいというのだろうか。

「トワ、信じて。自分の力を。」

包み込むような優しい声だった。胸が熱くなるのを感じる。

「トワ様。私はトワ様を信じます。」

全身に熱が走った。力が漲ってくる。今なら何でもできそうな気がする。

「そうだ。私は私。ペンダントがあってもなくても。」

トワの目には今までに見たことがないほどの強く優しい光が宿っていた。トワはセレンとミアと過ごした日々を思い起こした。いつも温かく見守ってくれて、無条件に信頼してくれるセレン。魔法抜きでトワ自身を見て慕ってくれるミア。

「私は二人を助ける!」

トワがそう叫び心に強く誓った時、トワの胸の辺りでとてつもなく強く白い光が現れた。その光はみるみる広がっていきトワを包み、闇を包んだ。先ほどまでトワを覆っていた完全な闇はもはやどこにもなく、トワの周りはトワの放った光で包まれていた。




「トワ!」

「トワ様!」

いつもトワを優しさで包み込み愛で満たしてくれる声が耳に触れた。振り返ると、そこには、トワがこの世で最も愛する二人の顔があった。セレンとミアの笑顔を見た途端、トワは心から安堵し、思わず笑みと涙がこぼれた。

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