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蜘蛛と私

テレワークになってから、自転車で駅まで行くことは大いに減った。

それだけ駐輪場にいる私の相棒(自転車)は、ひとりぼっちにされているのだ。

あいにくだが、運動も好きではないし、今年の始まり、母の誕生日の前日に交通事故に遭ったぐらいだから、今年は余計に自転車に乗っていない。

それでも、月に2度は、校了と病院に行くため、自転車に乗る。

これは先月のことだ。

マンション下の駐輪場には、自転車を整列よく並ばせるための機械が上下についているの。私は下に停めているのだが、その私の自転車の真上の段は誰の自転車も止まっていない、空席である。そこに一匹の蜘蛛がいた。

私が四方八方に大げさなぐらい糸を撒き散らしている蜘蛛を観察していると、どうもそこに巣を建設中だったようだ。蜘蛛は観察する私を見て、「この者はなんじゃ」とでも言いたげな視線を投げつけて来た。

なので、私は声に出して、はっきりと言った。

「ここは、私がもう20年以上自転車を停めている場所である。あなたが、今よりも下に向かって糸を垂らし、巣を大きくしようとするのであれば、私の自転車にも糸が絡まっていくであろう。そうなった場合は、私は、自転車を使用する際に、あなたの巣、つまり家を一部破壊なくてはならない。そんなことはしたくないので、今よりも下に向かって大きくするのは諦めていただきたい。私が帰ってくるまでに、その行為をやめていない場合は、私はしかるべき対処をしなくてならない。争いたくはないのだ。ご理解いただきたい」と。

それだけ述べ、そのときは振動などでできるだけ巣を壊さぬように、そっと自転車を出した。


「頭がおかしい」「変わっている」「変な人」など、いろんなことを私に言ってくる他人はいるが、一般的に考えて、蜘蛛が人間の言葉を認知し理解して会話をするだろう、とは私も思ってはいない。学者でないので、そんなことが蜘蛛の脳とか遺伝子レベルでできるかどうかを研究してないので、絶対ないとは言い切れないが、まぁ取り急ぎないだろう。

それでも、話しかけたのは、CLAMP先生の漫画「xxxHOLiC」に、蜘蛛の巣を壊したため目を失った話が、描いてあったのを思い出したからだ。よく、「お前は現実と幻想、虚構、空想の区別がつかないのか」と注意されたことも幾度となくあるが、嫌な予感がしたので、そういうときは、きちんと礼儀を持って接することにしている。決して私に不思議な力があるわけではないし、不思議ちゃんぶるつもりもない。そもそも漫画の受け売りだし(苦笑)


帰ってくると、蜘蛛は人の話だと全く聞いていなかった。私が自転車を停める下段にまで、その艶っと光る白い糸を悠々と伸ばしていた。

蜘蛛と目があう(気がしただけだろう)。

「私、朝、行く前に言いましたよね。こちらはやめてくださいと。あなたの家を壊したいわけではないのです、と。聞き入れてはくださらないということでしょうか?」

蜘蛛は何も言わず、「あちゃー」とでも思ってるのか、見えなくなりそうだけど隠れきれてない取っ手をのブロックにささっと身を潜ませ、こちらを窺っていた。

「すみませんが、自転車を停めなくてはなりません。ゆえに、ここは破壊します」

そう言って私は、私が停める部分にだけ邪魔になってる巣の5分の4ぐらいをそっと外して、自転車を止めた。珍しく、次の日も出かけなければならなかった。確か取材だったように思う。取材ならなおさら、こんな風にのんびりと蜘蛛と話す時間はないだろう。なので、停めてから私はもう一度、蜘蛛に向きなおり、伝えた。

「この夜の間に、修復したとしても、ここにある限り、私は必ずまたあなたの巣を破壊しなければなりません。どうかわかってくれませんか? 上の段は自転車が停まってないから、ゆるりと作れると思いますよ。もしくは、もう少しだけ頑張って、外側に行けば、木だってあるし、なにもこんな鉄のばっかりのところで作らなくてもいいではないですか。勘弁してもらえませんか? 明日は私、こんなに丁寧にお話できる自信がありませんよ。お願いします」。もちろん、蜘蛛からの返事はない。少しとはいえ、壊してしまった蜘蛛の糸が、風になびいていた。


次の日。

驚いた。蜘蛛に話が通じたのだろうか。私のところで巣を作るのをすっかり諦めてくれたようだ。おかげで、私は、巣を壊すことなく自転車を出し、現場へと向かった。隣の駐輪スペースに、昨日よりも大きな蜘蛛の巣が、陽の光にされされてゆらゆらと風に揺れていた。


Fin.

これは、実話です。

この話を誰かにずっとしたかったのですが、忙しくなかなかUPできませんでした。この話をすると、「お前は頭がおかしいからそんなことするんだ」という人と、「お前らしいなぁ」という人と、様々で、それがまたおかしくて。私は虫は苦手だけど、大人になるにつれ、殺すだけが全てではなくて、どうすれば共存できるのか、を考えるようにもなって来ました。全部は無理だけど。

虫って、人間が生まれる前から地球に存在してるけど、突然現れた異星人だって説を、それも漫画で読みました。進化した形跡がないらしいです。突然“昆虫”っていう形で化石となって出て来てるらしい。奥が深いですな。

だけど、もう少しでも、心を通わすことができたら、お互いが思いやれたら、世界は優しくなるのかなぁと思ったりしたり。。人間同士で難しいのだから、人間と動物、昆虫ではもっと厳しいのかな、なんて思う夜でした。



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