初恋の相手が義妹になった件。第26話
怜奈さんとのデートはまさかのドライブデートだった。
普段は都会暮らしだから、緑の多い道を行こうとのことで、山間の道を車は走っていた。
「道の駅があるから、そこでお昼にしよう」
車内に流れるポルノグラフィティの曲に合わせて怜奈さんは鼻歌を歌っていた。
「確か悠人君も好きって言ってたよね?」
あの時、迷子の怜奈さんを助けた時に、広島から来たと聞いて真っ先にポルノグラフィティが浮かんだが、住んでるところは広島の中でも真反対だと言われた。
「まあ、私達からすればみんなが通るからね。ポルノって」
雲をも摑む民が順番に流れておりハートが流れ終わると、丁度トンネルに差し掛かり、Aokageが流れてきた。
「うわめっちゃいいタイミング」
怜奈さんはそう言うと僕に向かって「ね、そう思わない」と言った。
自転車ではないけど、僕らは少し狭く短いトンネルをくぐり一つ山を越えた
しばらく、山間の道路を車は走ると、風光明媚な棚田が姿を現した。
「すごい、一面緑の階段だ……」
「いいね、その表現。まあ私も近くに住んでるけど、初めて来た。昨日ネットで調べたんだ。どうしても廿日市だと宮島厳島神社になりがちだけど、山でもいいかなって。それにほんのり、こっちの方が涼しいし」
「いいですね。空気か綺麗な気がする」
「って、気がするんじゃなくて本当に綺麗なんだよ」
僕らは深呼吸をしてみる。肺に送られた酸素が心臓によって身体中に巡らされていく。
「小一時間で来れるのか……これからは初恋の思い出の地としてたまに来よっと」
「……来年も一緒に来ませんか? 今度は百花も連れて」
「そうだね……」
僕らは車に戻り、少し先の道の駅で少し早めの昼食をとる。
僕はここが推しているB級グルメの漬物焼きそばを食べる。
「どう?」
「美味しいですよ。ひとくち食べますか?」
僕は箸で焼きそばを取ると怜奈さんの口へと運ぼうとした。
「え、あーんってやつ? 恥ずかしいよ……」
「大丈夫ですって。誰が見てもカップルにしか見えませんから」
「……じゃあ」
そう言うと怜奈さんは口を開き、僕はその中に焼きそばを入れた。
「んっ、美味しいね」
少し早めの昼食を終えて、焼き団子を食べながら僕らはベンチに座っていた。
「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるね。ここで待ってて」
「わかりました」
僕は一緒に買ったお茶を飲みながらぼーっと、青すぎる空を眺めていた。
「あれ? 悠人君じゃない?」
「あ、陽菜さん」
「久しぶりじゃん、元気してる? あれ、百花ちゃんは?」
「百花は……」
「ごめん、お待たせーって……」
怜奈さんは陽菜さんの姿を見て驚いていた。
「さ、咲洲ひな!?なんでこんなところに!?」
「あー、できれば騒がないでもらったほうが……」
怜奈さんは自分で口を手で覆うと「ごめんなさい」と陽菜さんに言った。
「あ、こちら従姉妹の岡野怜奈さん。で、こちらがとあることで知り合った咲洲陽菜さん」
「よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ……えっとあとでサイン貰えますか?」
「いいですよー」
陽菜さんは僕らの間に座って落ち着いた。
「美夜子さんは?」
「目を話した隙にどこかに行っちゃったんだよね」
恐らく、美夜子さんも同じ事を今、思っているに違いない。
「悠人君も隅におけないね。百花ちゃんという彼女がいながら従姉妹のお姉さんと二人って」
「これには色々訳がありまして……」
陽菜さんにその訳を説明していると、遠くから美夜子さんが肩を怒らせて歩いてきた。
「何度言ったらわかるの!なんで待てないのよ!」
「ごめん美夜子、怒らないでよ」
「あ、悠人君こんにちは」
「こ、こんにちは……」
陽菜さんが美夜子さんに怜奈さんを紹介すると、美夜子さんは丁寧に挨拶をしていた。
「あ、ちょっと色紙買ってくる!」
怜奈さんは走って売店の方に向かった。
「いいところだよね。長閑で」
「ですね。なんか本当に都会の喧騒を忘れられる」
僕と陽菜さんは波長が合うようで同じようにベンチで寛いでいた。
「こっちは百花ちゃんの方の実家があるの?」
「そうなんですよ。だから怜奈さんって義理の従姉妹みたいな感じなんです」
「じゃあ、浮気デート?」
「というか、諦めるためのデートです。最後の思い出にってやつです」
美夜子さんはそれを聞いて「それって残酷だね」と呟いた。
「悠人君、モテすぎでしょ? 百花ちゃんに怜奈ちゃんまで、美人さんにモテモテ。羨ましいなぁ」
「陽菜には私がいるでしょう!」
美夜子さんは陽菜さんの横っ腹を抓りながら言った。
「明日は因島に行くから、この後車で尾道まで行くんだ。広島って文字通り広いね。横に」
「なんで陽菜が得意気に言うのよ。運転するのは私なんだからね」
「因島ってポルノグラフィティの聖地……」
「そうそう。それに昔に映画の撮影で言ったことあるんだ。豊崎優衣ちゃんと」
「あ、僕それ見たことあります。ロケが因島だったからって理由だけで。めっちゃ良かったです」
陽菜さんは「ありがと」と言いながらさっき美夜子さんから手渡されたペットボトルのサイダーを飲んだ。
「まるでCMまんまですね」
怜奈さんは戻ってくるや否や開口一番、その一言を陽菜さんに言った。
「そっか、ちゃんと気にしないといけないんですね」
「まあ面倒だけど、何飲むか悩まずに済むから、それはそれでいいけどね」
陽菜さんは怜奈さんに色紙とペンを手渡されると、さらっとサインを書いた。
「写真は?」
「え、いいんですか?」
僕は初めて陽菜さんが芸能人だったんだって実感した。
「じゃあ、僕が撮りますね」
「え、悠人君も一緒でいいじゃん。怜奈ちゃんはどう?」
「じゃあ、陽菜さんとツーショットと、三人でのでいいですか?」
「うん、いいよ。じゃあまず二人だけで撮ろう」
美夜子さんが怜奈さんのスマホを持って写真を撮った。
「じゃあ次は悠人君も入って……」
僕も入ってカメラに向くと「悠人君、もっと笑って。顔固いよ」と美夜子さんに指示をされた。
「あ、あと……ごめん撮ってもらえるかな?」
陽菜さんは美夜子さんのスマホを指差して僕と陽菜さんと美夜子さんの写真を撮るように、怜奈さんに言った。
「よし、それじゃあ百花ちゃんによろしくね」
「はい。旅行楽しんでくださいね」
僕らは二人と別れると、車に乗り込んで、この後どうするか作戦会議が始まった。
「まだお昼過ぎだしな……」
「あ、でもこの後天気崩れるっぽいです」
「じゃあ早く帰った方がいいよね……」
怜奈さんは少し寂しそうにそう言った。
「あー終わっちゃうのか……」
「最後にやり残したこととかないですか?」
「いっぱいあるよ……キスとかエッチとか色々。でも流石にそれは気が引けるし……」
「一応、百花からはキスまではOKって言われてますけど……」
「じゃあ、キスしよっか……」
車内が沈黙に包まれてしまう。
「流石に人目があるので……」
「山奥の誰もいない道端で? なんかいやらしいね」
「それは怜奈さんが勝手に想像してるだけです」
「あ、それ。怜奈さんじゃなくて、怜奈って呼んで。あと、敬語も禁止」
「えぇ……」
僕は渋々了承して「怜奈……」と呼び直してみた。すると怜奈さんは耳まで真っ赤にして照れていた。
「異性への免疫無さ過ぎでしょ」
「ば、バカにしないでよ」
「バカにはしてないよ……そう言うところ可愛いなって思った」
怜奈さんはエンジンを掛けて車を始動させた。
「いきなり!?」
「ここじゃ人の目が多いから、いくら車内だからといってもね」
車はしばらく走り、さっき通ってきた山間の道の路肩にある駐車スペースに停まった。
「ここなら……」
「えっ!」
怜奈さんはいきなりシートベルトを外すと、僕に覆い被さるように前のめりになった。
「ん……」
唇が重なり、さらにお互いの舌を絡め合うと、僕らは互いを貪り食らい合う。
「すごい……舌を絡めるだけでこんなに気持ちいいの?」
「僕も最初びっくりしたよ……これだけでって」
「ごめん、私我慢できないかも……でも車を汚すとあれだし……」
僕は怜奈さんを黙らせるように再び唇を重ねた。
「……激しいのね」
「違う。このままじゃこの先までしたくなるから……」
「悠人君もしたいの?」
「……でも百花が」
「あの子のことは今は忘れてほしいな……」
それだけはできない。僕は怜奈さんの肩を掴むと真剣な眼差しでまるで怜奈さんの眼球を貫くように見た。
「それはできない。ごめん」
「そうだよね……私もごめん。調子乗った。帰ろっか」
それからの車内はどんよりした空気が広がっていたので、怜奈さんは窓を開けて運転をしていた。
「あ、雨だ」
大粒の雨粒が一つ二つフロントガラスに当たる。
窓を閉めて車内は雨が叩く音だけになった。
「まあ、もうすぐ着くから大丈夫だろうけど……」
「どうしたんですか?」
「うちの庭、水捌け悪いからさ、もしかしたら水浸しになるかも」
僕は川遊び用のクロッグサンダルと今履いているスニーカーしか持ってきていない。濡れたからといってどうこうというわけではないが……。
「私、今日お気に入りのスニーカーだから濡らしたくないなぁ」
僕はため息を吐いて「じゃあ、玄関までおんぶしてあげるよ」と言うと、怜奈さんは無邪気に喜んでいた。
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