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いつかの夢の続きを【序章】

ずるい。
私なんか眼中になく、本に夢中だ。
なんかムカつく……。

窓際の席の彼女は、どっからどう見ても地味子。
もっさりした髪型と黒縁メガネ。すっぴんで垢抜けない陰キャの典型だ。

立山美夜子。
別名、図書室の住人。
朝に休み時間、それに放課後と全ての時間において図書室に居るので付いた名前だ。

私は咲洲陽菜。
別名は特にない。
美夜子とは真逆の存在。所謂陽キャグループに所属している。

ある日のこと、待ち合わせの為に駅に向かっていると、パンプスのヒールが折れて困っているところを助けてくれたお姉さんがいた。

「大丈夫?」

「あ、ヒール折れちゃって……」

「ちょうど近くに靴屋さんあるから行こう」

「あ、ちょっと!」

私は、お姉さんに無理矢理腕を引っ張られて靴屋に連れていかれ、新しいパンプスを買ってもらった。

「あの、お代出しますよ?」

「大丈夫だから……」

そう言うとお姉さんは直ぐ去ってしまった。
しまった。せめて御礼を言えばよかった。
それにしても、綺麗な人だった。
黒髪で少しウェーブの掛かった美人で巨乳な……だけど、どこかで会ったことがあるような?

その次の日、いつものように学校に行き、教室の自分の席に座る。
隣を見ると相変わらず図書室の住人がそこに鎮座していた。
今日の空模様と同様陰鬱とした空気が立ちこめる。
私はため息を吐くと、それに気づいたのか、こちらを見てくる。

「何?」

「なんでも……」

そう言うと、手元の本にまた目を落とす。

「何だよ……」

授業が終わり、昼休みになると、噂通り図書室へと彼女は向かう。
私は気になって後をつけた。
とはいえ向かうのは図書室だ。
私がそこで見たものは、衝撃的なものだった。

「やめてください……」

「いいじゃん、彼氏とかいないでしょ?」

「ここ、図書室ですよ……」

「関係ないよ。俺、こう見えても結構モテるんだよ? そんな俺が言ってんだからさ。折角いいもの持ってるんだし」

おそらく三年生だろうか。無理に言い寄る様子に私は耐えかねた。

「何やってんの?」

「ああ?」

男は睨みつけてくるが、私は引くことなく近付く。

「あんた、この子に彼氏いないって言ってたけど、私が彼氏だから」

「は?」

「わからない? 男には興味ないってこと。さ、行こ」

私は立山の腕を引きその場を離れる。

「……ないで」

「え? なんて?」

「余計なことしないでって言ったの」

「は、意味わかんないんだけど」

「別に、助けてもらわなくても何とかなったから」

「あっそ」

立山の腕を離すと、私はそっぽを向いて歩き始める。
教室に戻り、紗由理に何してたか聞かれたが、事をはぐらかして答えた。
昼休みの終わり際に立山が教室に戻ってくるも私は特に気にすることなく、普通に友人との会話を楽しんでいた。

その日の帰り道、昼休みの三年の男子が校門で待っていた。
私は普通に無視をして歩いてると、後ろから肩にかけていた鞄を掴まれた。

「ちょっとなんですか?」

「無視はないだろ、無視は」

「用があるなら声を掛けてくださいよ」

「だから、こうして声を掛けてるだろ。あ、もしかして頭悪い?」

「は?」

「あー頭悪いからまともに返事もできないか。かわいそ」

「いいこと教えてあげますよ。頭が悪いと、なんでも自分の都合よく物事を解釈するらしいですよ。先輩にお似合いですね」

その言葉に激昂する男は私の鞄を引き剥がすと植え込みに放り投げた。

「てめぇ調子乗ってんじゃねーぞ!」

「状況判断もできないようなので教えてあげますけど、先輩の方が調子乗ってますよ」

「ちょ、立山?」

立山は私の鞄を拾い上げると飄々とした態度でそう言った。

「知らないようなので言っておきますけど、この人、かなり頭いいですよ。新入生代表挨拶するくらいには」

「そ、そんなの関係ないだろ!」

「先輩は……ああ、確か最下位でしたね。こんなつまらないことする前に、勉強頑張らないと、卒業も危ないんじゃないですか?」

立山を殴りかかろうとする男は次の瞬間、地面に這いつくばっていた。

「私の家、合気道の道場なので……護身術程度は会得していますから」

私はその様子を見て絶句していた。
すると、立山は私の腕を掴み引っ張った。

「ちょっと!」

その力は強く私は仕方なしに着いていった。
しばらく無言のまま引かれるがまま着いていくと、昔ながらの日本家屋の豪邸に辿り着いた。

「ここって……」

「私の家。入って。今日誰もいないから」

立派な門の敷居を跨ぎ、飛び石のアプローチを渡り玄関へ着くまで数分掛かった。

「家の人、本当にいないの?」

「父は地方に合気道の指南に行ってる。母も兄もそれに同行してる。お手伝いさんがいるけど、もう帰る時間だから」

「お、お手伝いさん?」

ドラマの話?
そうとも思えるが、合気道家はそんなに儲かるのだろうか……。

「ここ、私の部屋。恥ずかしいけど、入って」

「お、お邪魔しまーす……って」

私は言葉を失った。
入って正面の壁にデカデカと貼られていたポスターは、紛れもなく私だった。
中学生の頃まで、子役として芸能界にいた私が雑誌に特集された時の付録のポスターが額に入れられて飾ってあった。
そのほか棚にはぎっしりと私が出演したドラマや映画のDVDと、有名アーティストとコラボしたCDが有ったりと、私の血の気が引いていった。

「ずっと言えなかったけど、私大ファンだったの」

「え……へえ、そーなんだ」

「うん。それに昔遊んだことあるの覚えてない?」

「昔? えー覚えてないな……」

「本当に? ほら、何でか猫の大きい滑り台のある公園で、一緒に遊んだでしょ? 陽菜ちゃん、すごい滑り方して大怪我したじゃない」

「あの時か……でも、あの時はそこで知り合った男の子と遊んでた気がするけど」

「それ私」

「もしかして立山、男だったりするの?」

「そんなわけないでしょ。小さい頃は合気道の関係で髪も短かったり、兄のお下がりの服とかも着ていたから……」

あの時の少年のことは鮮明に覚えているし、私の初恋相手だ。
滑り台で汗をかいた肌のせいでつんのめって、転がり落ちた時のことだ。大怪我を負った時、迅速に対応してくれた男の子、それが立山だった。
それじゃあ、これは運命の再会?

「あんなにボーイッシュだったのに、今は……」

「何が言いたいの?」

私は立山の体を舐め回すように見つめた。

「年不相応な体つきになって……」

「何よ年不相応って」

立山はそう言うと何故か着替えを始める。

「なんで脱ぐのよ!」

「帰ったら直ぐにでも制服は脱ぎたいの」

私は何故か目を逸らした。が、その先にある姿見にその着替えシーンは生々しく映っていた。
濃紺のブラにたわわな果実が二つ乗っている。肉付きの良い腹回りに桃のようなお尻。少し食い込み気味のニーハイソックスを脱ぐと、私の視線に気づいてたのか立山は、ニヒルに笑って見せた。

「興味があるならちゃんと見ればいいのに」

「べ、べ、別に、きょ、興味ないし……胸とか自分にもあるし!」

「ふーん」

後ろから抱きついて私の胸を両の手で揉む。

「こっちと背中の、どっちがいい?」

「ちょっと、やめてよ……」

「いいじゃない、女の子同士なんだし……私、男には興味ないし……ね?」

立山の甘い声に、私は脳がクラクラしていた。
考えがまとまらない。やめて欲しいはずなのに、体はそうではない。
背中の感触もずっと感じていたいし、離れたくない。
私が、立山に堕ちた瞬間だった。

「ね、私たち、付き合いましょう? お昼も言ってたでしょ?」

「だ、だけどっ、女の子同士だし、私は……」

「私の事、嫌い?」

「た、たてや……」

立山は私の口を指で摘むようにして塞いだ。

「美夜子」

「……ぷはぁ。み、美夜子……」

「よくできました」

頭を撫でられると、不思議と嫌ではなかった。寧ろ嬉しかった。

「それじゃあ、私も呼び捨てで陽菜って呼ぶわね」

「……美夜子、昨日会ったでしょ? 私にパンプス買ったの美夜子でしょ?」

「あ、気づかれちゃったか」

「なんで学校でああいう風にしないわけ?」

「だって、毎日やるの面倒だし。それに私、化粧品持ってないからお母さんの借りてるから」

美夜子は少し艶っぽく笑った。

「本当に同級生なのか、不安になってきた」

「正真正銘の同級生よ? 生徒証の生年月日見る?」

「それより先に、いい加減服着なさいよ」

美夜子は素直に服を着た。
そして、私は抜け出せない沼にハマってしまったことにまだ気づいていなかった。
私の高校生活はここから狂ったと言ってもいい。狂うは少し違うが、思い描いてた絵に描いたような青春は訪れることはなかった。


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