こんなはずじゃなかった
大人になるまでなら、いつまでも可愛い女の子でいられると、思っていた時期があった。
私も、みんなと同じように可愛い女の子として毎日を過ごしていた。そんな毎日がずっと続くと、学校に通っていた頃は思っていた。
どうして、私だけが。本当は、本当は、こんなはずじゃなかったのに。
突然、私は難病を患った。つやのきれいな髪の毛は抜け落ち、透明感のある肌は荒れ果てて皮膚病が進行した。背中や肩を中心にできた皮膚病は腕や顔にも広がり、夏でも帽子や長袖を着て病気を隠さなければいけなくなった。
病気を隠すためだけに、自分の好きな洋服を着られなくなるのはとても悲しかった。けれども、日が経つにつれて病気はさらに悪化していった。
両足も思い通りに動かせず、歩くことも立つこともままならなくなった。学校に行けなくなった私は、病院に入院し治療や手術を受けることになった。
その病院はとても大きくて有名な病院で、最先端の医療技術や機械を使うことで、従来は治せなかった病気も治療や改善することができるという。
しかし、その信頼できる大病院でさえ、私の病気を治すことはできなかった。科学の力にも限界はあり、どんな科学技術や治療法も私の病気を良くすることはできなかった。治療をしてもしなくても、私の病気は悪化の一途をたどっていった。
これまでは自由に動かせた両手も麻痺し、できないことを他の人にやってもらうことが増えた。耳も徐々に聴こえなくなり、自分の声も含めたすべての音が聴こえなくなった。やがて両目も見えなくなり、自分がどこにいるのか、自分の置かれた状況がどうなっているのかもわからなくなった。
それでも、理不尽な病気の苦しみや痛みは変わらなかった。その時、私に唯一できたことは、自分の苦しみを語るべく、言葉を話すことだけだった。
もう耳も聴こえず目も見えずで、完全に静寂な暗闇に閉じ込められた私。それでも心の耳を胸に傾ければ、そこからは自分の鼓動が聴こえてくる。
周りの同い年の子たちは、特別なことをしなくてもみんな可愛いのに。確かに、私の見えないところでは苦労していることもあるんだとは思う。だけど、彼女たちはただ、毎日当たり前のことを当たり前に繰り返しているだけ。
私だって毎日同じことを繰り返していた。みんなと同じように、普通に生活していた。別に特別なことをしているわけでもなかった。もちろん、特別な使命を持って生まれてきた覚えもない。
それなのに、なぜ、私だけ。
今はこんなにひどい姿の私だけど、それでも、赤ちゃんだった頃は無条件にみずみずしい肌だった。
みんな、生まれてきた時はとても可愛らしい赤ちゃんだった。世の中の疲れた顔したおじさんも、病気で寝たきりになったおばあちゃんも。
もし、ずっと赤ちゃんのままでいられたら、私は今でもずっときれいで可愛い姿だったと思う。
おわり
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