夢の妖精

「最近、何も上手くいかない。どうしてこんなに辛い思いをしなきゃいけないの」

 ある女の子のひとりごとを、陰からこっそり聞いていた鳥の妖精は、彼女の状況を想像した。

「彼女は食事も満足に取れず、きれいな水も飲めない。お金もないので、服もボロボロ、まともな家にも住めない。病気に苦しんでいるかもしれない。もしかしたら空気が汚いのかもしれない」

 鳥の妖精は、そのことを他の妖精たちに伝えた。

「というわけでみんな、彼女を助けてあげてくれ」

 話を聞いた妖精たちは、みんな力を貸すと言ってくれた。

 まず、実の妖精が言った。
「わかった。栄養満点な食べ物をいっぱい持ってくる」

 次に、水の妖精が言った。
「じゃあ、美味しい水を汲んでくる」

 金の妖精が言った。
「こっちはお金持ちだから、お金をいっぱい持ってくる」

 花の妖精が言った。
「それじゃ、どんな病気も治す魔法のお薬を作ってくる」

 草の妖精が言った。
「私は立派な服を」

 木の妖精が言った。
「私は立派な家を」

 風の妖精が言った。
「私はきれいな空気を」

 光の妖精が言った。
「私は心を元気にする太陽光を」

 みんなは協力して、それぞれ準備を進めた。そんな中、夢の妖精だけは何も持ち合わせていなかった。

 そして準備が完了し、鳥の妖精は女の子を妖精の森へ呼んだ。
 そこには明るい太陽の光、きれいな空気、立派な家があった。

「これで君は幸せに暮らせるかなって思って、みんなで準備したの」
「私、食べ物にも水にもそんなに困っていないよ」
「えっ!」

 妖精たちは驚いた。実は女の子にとって、きれいな空気や充分な衣食住など当たり前だったのだ。

 しかしみんなが自分のために用意してくれたのを見て、女の子は今まで当たり前だった幸せに初めて気がついた。

 そして彼女は夢の妖精の方を向いた。

「ありがとう、夢の妖精さん」

 そう、夢の妖精は女の子に妖精たちの夢を見せていたのだ。

 女の子が夢から覚めると、妖精たちの姿は見えなくなった。

おわり

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