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クリニックで骨切りをするということ

骨切りと聞くと大きな手術と思われますが、確かに大きな手術で患者様にとっても負担も大きく、医療者側としても複雑なオペレーションを要する施術となります。形成外科医でも骨切りを覚えるのには、かなり苦労する分野かと思います。自分は栃木県にある自治医科大学形成外科で研修をしまして、骨切りをする菅原教授、宇田准教授の基、骨切り症例を数多く見ることができました。最近は顔面骨骨折も少なくなってきましたが、栃木では救急を受け入れている大きな病院なので、頭部外傷の患者も多くいました。そして、美容外科ではというとさらに間口は狭くなり、骨切りを学ぶのは至難の技と言わざるをえません。特に美容外科では利益のことを考えなければいけないので、休みを利用して学ぶ以外勤務中にしっかり学ぶのは難しいのが現状ではないでしょうか。つまり見学する暇があれば、売り上げに繋がる仕事をしましょうとオーナーは考えるわけで、休みを利用した見学だけで骨切りを習得しようとすると長い年月を要してしまします。

では自分はどのように骨切りを学んだのかというところですが、自治医大は他大学の病院に比べると多くの骨切り手術があり、それを間近でみてきたことはとても良い経験になりました。そして、2014年に湘南美容クリニックへ移籍した時は奥田先生(現、銀座フェイスクリニック院長)のもとで、多くの症例を学ぶことができました。当時は奥田先生が骨切りの手術をする時は、自分の予約枠を全て切って助手で入ることができたので、半年くらいはぴったり奥田先生について骨切りを学びました。これは、今では考えられないことです。こんなスタイルで学べるクリニックは、今は存在しないと思います。美容外科で行う骨切りは保険診療で行わないものもあるので、奥田先生から細かいことを学びながら、台湾などにも勉強に出向き、技術を習得していきました。

その後、1人で適応を決めて、施術をして術後経過を見ることができるようになり、そこからさらに台湾や韓国などのシンポジウムなどにも参加して技術習得に努めました。そこで考えたのは、大学病院などで行う骨切りとクリニックで行う骨切りの違いは何かということでした。適応になる疾患が違うというのは横に置いておいて、大学病院との違いはスタッフの人数、入院できない環境です。大学病院や市中病院で骨切りをされている先生は、第一助手は医局のドクターで第二助手もドクターが付いて、3人で手術をしているところが多いのではないでしょうか。またある程度の手術時間で麻酔時間も長くなり、ある程度の腫れがあってもしばらく入院で管理するので、さほどシビアになることはないかと思います。

美容外科で骨切りをする時は助手にドクターを入れる余裕はないわけです。なので、第一助手はナース。そして器械出しナース、外回りナースと、この組み合わせで手術を進めます。両顎手術と呼ばれている顎矯正手術のオペレーションは、自治医大やその他の病院を見学した際にもドクター3人で頭を囲んで手術をしていました。それができないので、第一助手をナースにして、ナースに筋鉤の持ち方を指導しながら、なるべく少ない手数で手術を進める手順を考えました。細かい話ですが、口を開けて手術操作を進めるので大きく展開することは口元が腫れる原因になります。最低限の術野の展開で操作するには、手数は少なくて良いとも言えます。

また入院管理ができないため、どうすれば術後管理を簡便にできるかを考えました。合併症が出ないようなオペレーションを考えなければいけないのと、腫れを少しでも少なくする工夫が必要でした。一つは手術時間を短くする。これはどんな手術にも言えるのですが、手術時間は短いに越したことはありません。組織が展開されてから閉じられるまでに受ける組織のダメージは時間に比例します。そして腫れも少なくなります。特に顔面の骨切りは腕や足の骨折の整復と異なり切離断端が露出するので、どうしてもある程度の出血を伴います。それを抑える方法の一つが早く手術を終わらせ閉創することです。二つ目が手術中の血圧の管理で、これはとても重要です。これは優秀な麻酔科医と仕事をするということですが、血圧を下げるのは通常の手術でも行われます。人間は血圧を下げると脈拍が上がります。それをいかに抑えるかが重要でう、低血圧麻酔科に合わせて脈拍を抑えることで静脈還流量を抑えることで出血を最大限に抑えることができます。出血が少ないと吸引している時間がなくなるので手術手技を次へとどんどん進めることができるようになるわけです。それに加えて、助手をするナース、器械を出すナースが手際良く進めることが大事で、チーム作りが理想を実現するのに重要な要素となります。

手技に関しては大学病院や見学に行ったクリニック、台湾でのライブサージェリーのやり方の良いとこ取りをしながら、少ない人数で効率的にオペレーションを進める方法を作り上げました。結果、第一助手ナース、器械出しナース、外回りナース、麻酔科医との5名で骨切りを完結できるようになりました。見学にくるドクターに「この少人数でよく骨切りができますね」と驚かれます。教育施設ではないというのもありますが、できるのです。そして、施術に人件費がかからないというのが実は大きなメリットなのです。どうしても自由診療で骨切りとなると高額な治療になります。それを少しでも価格を抑えて多くの患者様に受けていただくには、削れるものは削らないといけないのです。

開業に当たってやりたかった事の一つでもある「骨切り手術」。そしてそれを多くの患者様に提供できるようにするために、今までの経験を最大限に活かす時がきました。そして、さらにより良くできるように改善に努めていきます。

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