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理想的なシルク生地をつくる 〜見つからなかったから、つくることに〜

MUUGI(ムーギ)のアンダーウェアのコンセプトと具体的な仕様が頭の中にイメージとしてできていったあと、次なるステップは、それをどのように作るのか?ということ。

(前回の記事はこちら。)

服づくりには、たくさんの工程があります。たとえば、服ができていく流れをすごく単純化して言うと、糸の原料→糸の紡績(糸になる)→生地作り→生地の染色→パターン・仕様決め→裁断・縫製→仕上げというプロセスがあります(あくまでシンプルにした一例です)。

これらの各プロセスにはたくさんの会社や工場が関わっており、さらには商社さんや問屋さんなどの間をつなぐ人、コーディネートをする人というのも多くいます。服作りをするうえでは、工場やメーカーさんと直接やりとりして進めていく方法もあれば、それらを全体プロデュースするような会社に依頼し、生地探しや工場選定を基本的にお願いする(メーカーや工場とは直接やりとりしない)という方法など、様々なやり方があります。

このアンダーウェア作りプロジェクトを進めるパートナーとして、どの立場や会社の方と一緒に進めるのが一番よいのか?

検討した末、今回作りたいアンダーウェアの最大の特徴であり難関ポイントは「生地」なので、まずは生地作りを起点として、出来る限り生地生産に近い会社さんと組んでやっていくのがよいという考えに至りました。というのも、様々な立場のアパレル業界の方と話したところ、「そのような生地(シルク100%のフライス編みで、適度な厚みがあってアンダーウェアに適しているもの)が流通しているのはあまり見たことがない」ということだったからです。たとえば、知り合いの大手生地商社さんに「シルク100%のカットソー用ニット」で探してもらったところ、スペック的には一致していても伸縮性が乏しくてアンダーウェアには不向きだったり…(おそらく、シルクのゆったりしたTシャツとしてはよいのだろうなという生地感でした)。シルクといえば中国なので、中国の市場でも探してもらいましたが、全然イメージと違う…。また、生地展示会にも出向いて、「シルク100%ありますか?」と各ブースで聞いて回りましたが、「シルク100%サテン」(いわゆる布帛、伸びない織物)や「シルクカシミヤのニット」(いわゆる”ニット”=セーターにあたるもの)などは出てきても、イメージしているものには出会えませんでした。

流通している生地(在庫されている生地)からベストなものをチョイスしようと思っていたわたしは、「どうやら、そんなものは簡単には出会えないみたい・・・」ということを知って多少がっかりしたものの、逆に「だから、欲しいものが売っていなかったんだ!」と合点がいきました。そして、だからこそオリジナルで作るべきなんだとも思ったのです。

その後、ご縁があってある生地メーカーさんと知り合うことができました。その生地メーカーは、シルクやカシミヤなどの高級天然繊維を主に扱い、オリジナルの生地を日本国内で生産しているというところ。長年海外や国内のハイブランドや老舗ブランドなどの生地を製造しているにもかかわらず、わたしのようなスモールビジネス(というか始まってもいない)でも相手をしてくださる懐の広い社長さんでした。この会社と出会ったことで、わたしの構想がようやくかたちになり始めたのです。

最初、この生地メーカーさんに「こんな感じの生地で、こんなかたちで、こんなものを作りたいんです」と話にいった時のこと。わたしが持参した様々な生地のサンプル(これよりもっとこうで、伸縮はこんな感じで、などと説明するための生地サンプル)を手に取った社長さんは、生地を伸ばして糸を見たり度目(編み目の密度)を見たりしながら、「これは何番手の糸で、何本で編んだら・・」などと早速生地作りのプランを作ってくれました。また、その工場さんで仕入れている糸の中に、ウォッシャブルシルクもあるとのこと! しかも糸の段階での加工ではなく、原料の”わた”の段階でウォッシャブル加工をして、そのあと紡績(糸にする)しているものなので、洗ってもその加工が落ちないというもの。日常使いできるシルクを探していたわたしの要件にぴったりだったので、そのウォッシャブルシルクの糸を用いて、フライス編みで数パターンの生地を作ってもらうことになりました。

数週間後。「生地どうなりました?」と連絡すると、「実は思ったよりもダラ〜っとした生地(伸縮が弱く、戻りが悪い生地)になっちゃったから、今もう一度作ってるんだよ。」との回答。何十年とカットソー生地を作っている人たちでも、一発で理想通りにいくわけではない奥深い世界だとあらためて感じました。その後、糸番手(糸の細さ)と度目(編み目の密度)などの組み合わせを変えた、いくつかの生地サンプルが届きました。その中から、240番手というとても細いシルクの糸を使用し、ほどよい厚みと密度がある伸縮性にすぐれたものを選び、それをMUUGIの第一弾生地として採用することにしたのです。イメージしていたような、しっとりもっちりとしたリッチな質感と心地よい伸縮性のある理想的な生地が出来上がったと思っています。

その後、生地作りと並行して進めていたデザインをもとに、実際に完成した生地の伸縮度合いをふまえた寸法の調整とパターンへの落とし込みを行い、ファーストサンプルが完成。そのサンプルを様々な人に試着してもらって調整したサンプルを作成、そしてまた試着と調整、という試行錯誤を繰り返し、デザインを固めていきました。また、色展開についても並行して進めていったのですが、そのあたりの話はまた次回・・・。


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