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マルクス二丁拳銃


縁は異なもの」で、卒業して初めて勤めた会社の話を書いた。

 所属課に入って担当者にあいさつして、自分の席についた瞬間。
 髪を真面目にショートにして、ポリバケツ色の制服を着て、めっちゃ緊張している私に早速のカウンターパンチ! まさに目がテン。

 目の前の席にいた女性の先輩が、でっかい派手な花柄のストッキング履いて、耳に牛のはなわのようなイヤリングをぶらさげていたのだ。制服にですよ。

 まあ、思い返してみても、その人は社内で1、2を争う、変わった人だったのだけど。

 頭脳はとびきり優秀で、英語ペラペラ。帰国子女。
 そして、超毒舌。人に的確にあだ名をつける天才。ちなみに私は、住所が動物っぽかったので地名で呼ばれてた。

 3時のおやつは、種類が少ないとクレームが出る。まるで、こどもみたいだ。お菓子の調達は、新人社員のシゴトだったのだ。通勤電車でかさばるおやつをもってゆく女。 ガサガサ。

 そんなある日「映画友の会」というのが結成され、私は雑用係に任命された。
 社割で買える映画のチケットを希望人数分申し込んで、休日に一緒に見に行くというのだ。
 私は一人でふらりと映画を観るタイプだったので、最初すごく抵抗があったのだけど、先輩命令とあれば致し方ない。

 運命の1本「マルクス兄弟の二丁拳銃」
 彼女は、もちろん行くわよ!と 勝手に私も数に入れていた。知らない、古そうな、白黒映画。うーん、あんまり行く気がしないなぁ……。

 ところが、これが、めちゃくちゃおもしろかった。
 新宿三丁目の小さめの映画館。席がすべて階段状になってるのだけど、前のサラリーマンが笑いすぎて、私の膝に頭をぶちつけても笑いが止まらないくらい。
 もう可笑しすぎて、笑いをこらえようとするとお腹が痛くて息ができないよー。

 マルクス・ブラザーズ。マルクス兄弟。本当の兄弟。映画の中では3人兄弟。(最初の頃は4人)
 髭のグルーチョ、ピアノ弾きのチコ、ハープのハーポ。

 ひたすら喋るマシンガントークの、髭のグルーチョ。
 ハープのハーポは口が利けないのか、サイレントなのか、ゼスチャーだけ。顔の表情だけでおかしい。
 絶妙な掛け合い。そして、素晴らしい演奏。一本指打法でピアノを弾くチコ。

 バーブラ・ストライザントとロバート・レットフォードの有名な映画「追憶」の 中で、バーブラがパーティでマルクスに扮するシーンがあるくらい、アメリカでは有名みたい。

 他にも「オペラは踊る」は、豪華客船の一室にどんどん、ぎゅうぎゅうに人が集まっていったり。ナンセンスって言ったらそうなんだけど、チャップリンとか、ドリフとかすきな人には、きっとおすすめ。

 次から次に、おもしろい映画をセレクトしてくれた先輩に感謝。
 大抵は、古いリバイバル映画とか、単館ロードショーだったな。

 先輩、いま元気かな。結婚したと噂で聞いたけど、お相手はどんな人だったら、暮らしていけるんだろう。やっぱ、全てを大きく受け止める系の外国人さんだろうな。

 後輩は、楽しい映画をいっぱい教えていただいて、感謝しております! 敬礼!




「水無月の残り香」 第31話 マルクス二丁拳銃
 最近は宝塚チャンネルにドハマリで
 映画、ちっとも観ていないな。マルクス観たい。

> 第32話 左手同盟よ

< 第30話 玉葱ぐるぐる

💧 「記憶の本棚」マガジン


いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。