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記憶の本棚

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雨の音を聴いていると、記憶の中の風景が蘇ってくる。 私小説めいた読み切りのエッセイです。 気になるところを齧ってみて下さい。 私的な想いや恋、写真、すきな本や映画を散りばめて。 … もっと読む
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記事一覧

父の本棚

 父の三回忌が終わった。  二年前の二月、凍えるような寒い日に父は逝った。  葬儀の日は…

水菜月
2年前
14

乙女椿

   淡くて、うすいピンク色で、小さめで。  おとめつばきは、私が別れの棺に入れた花。  …

水菜月
2年前
6

檸檬への傾倒

 バーでウィスキーを飲む。今宵は月も出ている。  仮に、山の上ホテルのバーとしよう。  …

水菜月
2年前
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薔薇色の頬に

 風が吹いて、ルノワール展に行った日のこと。  少し待てば、絵の前に行けるくらいのほっと…

水菜月
1年前
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野の花の冠

 今日も間もなく日が沈む。気だるい達成感が体を包む。  駅から家へ帰る道は見事にずっと下…

水菜月
2年前
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私小説の向こう側

 此処で私が書いているのは、何のジャンルなんだろう。  随筆と書くとなんだか仰々しく、ノ…

水菜月
2年前
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航空灯の甘い煙草

 こんな夢を見た。  長く細くどこまでも続く梯子を上っている。  天から垂らされた糸が手を差し伸べてきて、きらっと光って翻り、ここだよと主張してくる。  掴みそこねて、堕ちていく。  床に砕け散った硝子素材の自分を見つめる。  その欠片をそっと袋に集めて、涙を流している自分がいた。  もう、あの場所にはいかない。傷つくのが怖い。  でも、運命は行かないことを許さなかった。 *  所詮、素人だからと言い訳をして文を紡いてきたことを、そっと告白します。  出逢った人た

酔ゐ人の戯言

 中原中也の詩に、「宿酔」がある。  宿酔《しゅくすい》、いわゆる二日酔いである。  私…

水菜月
2年前
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マッギンレイ大佐

   ライアン・マッギンレーは、アメリカの若手写真家。  まったく大佐などとは関係ないので…

水菜月
2年前
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文学全集の過去

 これは、第一話「父の本棚」の、その後の話である。  先日、父の本棚にある日本文学全集に…

水菜月
2年前
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写真の森の迷子

 親しい人たちから、写真の良し悪しって何かと聞かれることがあって。  これはね、とっても…

水菜月
2年前
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時間差ギャラリー

 社会人向けの写真教室に通ったきっかけは、またもや父であった。  私の人生の重大決定事項…

水菜月
2年前
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視野の蛍

 私の右目の視野は、少し欠けている。    数年前に原因不明の右目痛を起こした際の後遺症で…

水菜月
2年前
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夜汽車の蛍

南半球の南十字星、サザンクロス。 かつて十字架座と呼ばれた、いちばん小さい星座。 あなたはみんなに人気のロマン星。 北十字星、ノーザンクロスの対極に光っている。 さそり座が山麓に沿って寝そべる夜空。 そんな南十字星とまちがわれてばかりのニセ十字星。 私は南十字星より先に君を見つけ、哀れみのまなざしを届ける。 あれに騙されてはいけないよ。 南十字星とちがって正式な星座じゃないんだから。 誰が決めたの? 偽物だなんて。 同じように空に光って、こっちに手を振っているのに。