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17:後輩と夫と「SPY」/槇原敬之

Jポップと野球、TVドラマの趣味が合う繋がりの2つ下の元後輩と良く遊んでた時期があった。
遊び場所は、池袋だとお互いにやや遠くて、渋谷だとシャレオツすぎて気恥ずかしいという価値観まで一致し、新宿で集合していた。

互いに暇な週末に一緒に何か喋ろうかって何のプランもなく集まって、とりあえずめぼしい居酒屋に入って話をしたりしなかったりした。
盛り上がれば始発まで、さほどな時は店を出て解散。

たまたま花園神社で酉の市があって、その他の祭りとどこか違う雰囲気に二人で呑まれたり、二人とも喋る機会を逸してしまい、手元にある本を読みながら、オーダーをいれる時以外無言で3時間飲み食いをしたあとに
「じゃあまた」
と店の前で別れた時もあった。
後輩は掴み所がない意地っ張りで、時々そんなことをする。

ある時、昭和歌謡の話になった。
「最近の曲は情景が動かないとか批評する人がいますよね」
と、もう30~40年前から音楽評論家がやかましく言っていたことを彼が口にしたので、うーんと頭を巡らした後

「槇原敬之のSPYってすげぇカメラ回ってない?」

と返答したら、視線を斜め下に落として、腕を組ながら

「……やっぱりそうくるよなぁ」

とクッククと笑った。
これは彼が物事や人を面白がっている時に出すポーズで
「だってあれ、主人公の見たままと心情じゃん」
私はブスッとしながら、サワーのジョッキをあおった。

そしてそれから15年以上経った、昨日の昼下がり。
私がYoutubeでSPYのPVをみている横で、午後から勤務の夫が出社準備をしながら

「その曲のそいつさ、カノジョわざわざ追っかけて自爆してるよな!信じてるなら追いかけずにいりゃあ幸せなのによ」

と、スマホを持ってを持って尾行する仕草をした。
その瞬間、今ここは日本の南の僻地の昼間だというのに、後輩と話をしていた時期と夜の新宿のあの空気感がバーッと一瞬にして蘇って、何だか泣きたい気分になった。

「そうもいかないのが人間の性ってもんなんだよ!」

と、前のようにブスッとしながら答えると

「そうかあ?浮気してる女とそれでも付き合いたいか、無理だから別れるか、そんだけじゃん」

もう結婚して15年になるから分かるが、夫に情緒を理解しろというのが無理な話で、もし浮気をしたところでそれは楽しいからで、罪悪感も背徳もないだろう。

ただ私も、都会に住んでいたとしても、夫の車の後ろをタクシーで追いかける真似はしないだろう。

彼が別に何をしたところで、私には「洒落にしかならない」。


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