もしも書くだけでそれを現実にすることができるなら
ちょっとした遊びをしよう。
「もしも書くだけでそれを現実にすることができるなら、君は何を書くか?」
色々な疑問が湧いてくるかもしれないので、そのためにある程度ルールを決めておくね。
・書いた言葉の解釈は全て君の意志で決めていい。都合の悪いことは基本起こらないものと考えていい。
・君以外にその能力を有している人間はいない(ゆえに他の人間の書いたことはこれまで通り、現実には直接的には影響を及ぼさない)
・あくまでこれは「何を書くか」という問い自体に楽しみを見出すものなので、とんちみたいなことを書いて認識を変にする遊びは、ほどほどにしておくように。
まぁそういうわけで、考えてみよう。
書いたことを現実にすることができるとしたら。つまり私がもし「私(睦月)はこの国の王である」と書いたなら……まぁ私の解釈次第になるわけだが、まぁ私の貧弱な想像力の結果、私は天皇みたいな立憲君主的な存在になるわけ。そうじゃないと現実と整合性がとれなくなるからね。
まぁそういう整合性を無視して、いきなり私がRPGで出てくるような典型的な女王になると考えるのもいいけど……まぁ、王様はつまんないわな。あまりにも面白くない。実際、千年前の王様は現代の一般市民たる私たちより豊かな生活をしているかと問われると、なかなか難しい部分がある。彼らは他者に対する欲望は満たしやすいと思うけど(承認欲だとか性欲だとか支配欲だとか)物質的な欲望に関しては、私たちの方が満たされている。んー。でも他者に対する欲望のうち、もっとも普遍的な、愛されたいという欲望とか、使命や生の意味を求める欲望とかは、その人自身の問題だからなぁ。
ま、ま、ま、別の方針で考えて行こう。
もっと典型的な書き方としては「私は一億円を手に入れた!」とかかな。うーん。別に……
お金貰ってもやりたいことないからなぁ。今のところは。もしお金が必要な何かをしたくなったときに、お金がないという理由で諦めずに済むのはいいことだと思うけど、別にそうじゃない限りは現状に満足してるしなぁ。
さて一般的な話はここまで! ここからは私の変態性を前面に押し出していこう。
「急にもうひとりの私が現われた! しかも、今の私より十倍くらい美形!」
これはテンションが上がる。というか、美形にするんだったら「私は急に美形になった!」でもいいんだけど……んーでもさ、外見の綺麗さって維持するのすごく大変だし色々なことに気を配らなくちゃいけなくなるし、人の目引き過ぎるからめんどくさいと思うんだよね。うーん。もうひとりの私が急に美形に生まれて、ひとり占めできるならすごくいいと思う。まぁでも、私自身である以上はめんどくさがり屋だし、外見が美し過ぎる反動でだらけまくって最終的には今の私と大差ない存在になりそう。それはそれで面白いだろうし、お互い仲良く毎日どうでもいいことで盛り上がっていられそう。
自分がもうひとりいたら面白いだろうなぁって私、本当に思う。前に友達にそう喋ったら「気持ち悪いと思う」とか返ってきて、理解できなかったんだけど、どうやらそういう考えの方が多数らしいんだよね。でもそれってさ、自分自身のこと気持ち悪いって思ってることなんじゃないのって。うーん。
自分自身がもうひとりいて、仲のいい友達になれないっていったいどういうことなんだろうって思う。それじゃ、ひとりきりでいるとき苦し過ぎない? 苦手な人間とずっと二人きりでいるのとあまり変わらない気がする。
もしかして、多くの人が誰かと一緒にいたがるのってそういうことなのかな。だとすると……まぁ、知ったことじゃないか。
それとは別に、長年の悲願、りっちゃんを召喚したいと思う。彼女のような存在が現実に存在して、私と友達でいてくれるということは、私にとって悲願なんだよ。昔からずっと。私が無条件で信頼し、尊敬し、愛することのできる想像上の他者。私自身がそうなりたかったけどなれなかった永遠の憧れ。
もし、書いたことを現実化できるってことになるなら、まずは浅川理知を現実化させる。もう何も考えず真っ先にそうすると思う。自分に分かる限りの彼女の情報を書いて、書いて、物質化する。
でもさぁ、もし私が書いてそこに出したその子が、私の知っていることや決めたこと以上のことを知らないなら、多分つまらなくてやってらんないと思う。というかそもそも形が保てないと思う。
私はどんな現実に対しても「もし彼女ならどうするか」と問うた時に、常に結論が出せる気はしない。ある状況下において、彼女がどのように選択するのかは私には分からないから、そういう意味での決定が、私の意思とは無関係に生じてくるんじゃないかなって。生じてくるんじゃないなら、面白くないんじゃないかと思って。
つまり、私たちが書いたこと以上の現実が、書くことによって訪れるということじゃない限り、書くことで何かを現実化させることができたとしても、私たちは今の私たち以上の喜びや幸福というものを、感じることは難しいんじゃないかと思って。
私たちはさ、自分たちが望むものを想像するだけで、ある程度喜ぶことができるわけじゃん。宝くじ当たったとか、世界一周旅行するだとか、そういうことでもいいわけだけどもさ。でももし、私たちが書くことによってそれを実際に現実にするとしても、それが私たちの想像通りにしかならないのだとしたら、それは私たち自身が想像の中で感じる喜びと、どう違うんだろうって。
別の言い方をすれば、私たちが自分の意思で夢を見ることができるようになったとして、その夢の中で満たした欲望と味わった快楽は、すでに自分が想像することのできるものでしかないから、すぐに飽きて、頭打ちになっちゃうんじゃないかと思うんだ。
現実というのは不可解で、次に何が起こるか分からないものだからこそ、私たちはその中で生きていると、自分たちの想像を超えた不幸を味わうこともあれば、逆に、想像を超えた幸福が訪れることもある。だからこそ人生は楽しいし、価値があるんじゃないかと思うんだ。
だから、書いたことが現実化するということがたとえあったとしても、私たちは多分、その書いたこと自体ではなく、副次的に生じる偶然的な過程と結果に喜ぶんじゃないかと思うんだ。
それと同時に、考えるということが得意な人間は、自分が次に何を考えるのか想像できないから(つまり自分がまだ想像したことのないことを想像する力を持っているから)想像すること自体に、現実におけるのと似た冒険のような感覚を抱くんじゃないかな。
そう、それが思索の喜び。ただひとりでじっと静かに考えているだけなのに、まだ自分が一度も考えたことないことを考え出すこと。想像したことのないことを想像すること。自覚していなかったことを自覚すること。
時に急な雨に打たれる。稲妻が近くに落ちることもある。思索する人間にとって、そういうのが楽しいわけだし、幸せなことなのだ。
そしてそういう人間にとっては、書いたことが現実化することなんて正直どうでもいい。というのも、私たちが書いたことや想像したことは、それは、それ自体として形を持っているのだから、ある意味においては、それはもうすでに現実化しているのだ。
ただ、物質にはなっていないし、他者にとっては、単なる妄想に過ぎない。独りよがりな遊びに過ぎない。
でもその人自身にとってみれば、その人の想像したことや書いたことは、彼の見ている現実とはまた別の形式を持った現実なのだと言えるだろう。
それにしても、自分で自分の体を触っても面白くないけど、私と同じ人間が目の前にいて、他者としてその体を触るのは面白いと思うし、触られるのも面白いと思うんだ。それはつまり、自分自身に対して受動的であったり能動的であったりすることができる、ということだから。
自分自身が、自分自身に対して、ある程度の膜を持つことができるということ。相手が次にどうするのか分からない、ということが、面白い。しかも自分自身だから、遠慮をしない。いきなりキスをしてくるかもしれないし、頭を撫でてくるかもしれない。背筋を指でなぞってくるかもしれないし、お尻を揉んでくるかもしれない。そんなことはしない、と思う人もいるかもしれないが、私という人間が、もしもうひとりいれば真っ先に何をしたいと思うか、と考えてみて、こういうことを思いつくのだから、私はそういう人間なのだ。
まず間違いなく、私は私に対していたずらをするし、そのいたずらに対してドキドキして、楽しむことができる。子供のように、無邪気に、互いの反応を想像して笑い、実際の反応を見て、驚く。仕返しをして、最終的にはもみくちゃになって、疲れて寝転ぶ。そして目を合わせて、微笑む。
んー! でも自分自身の文章を書くっていうこと自体も、ある意味ではそういうことなんだと私は思うよ。だって書かれた文章は、それを読む未来の私にとっては「今の私には書けない文章」なのだから、一種の受動性があるというか、いたずらの可能性があるというか。
それに私、時々未来の私が「びくっ」とするような、いたずらっぽい表現もするからね。
そうだねぇ。たとえば……ちょっと今思いつかないわ。まぁでも、キスできるならキスしてあげたい気分。ハグできるならハグしてあげたい気分。
私、過去の私も未来の私も、また今の私とは別の私として、好きだ。多分今の私とぼけた顔してるけど、未来の私はそういうとぼけた過去の私のことが大好きなんじゃないかなぁって思う。それか、もしかすると未来の私は今の私よりさらにとぼけていて、今の私以上に、私自身のことが好きかもしれない。過去も未来も、今以上に愛するようになっているかもしれない。
もしそうなら、それ以上に喜ばしいことはないね。
追記。未来の私へ。なんでnoteやめちゃったの?
まぁでもきっとその理由は、あなたにとって悪くはない理由なんだろうね。
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