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日本酒とチョコレートの未来②

前回①では現在の日本酒とチョコレートの関係ということで、とりあえずコラボ商品を簡単に数えてみました。今回はその過程で気づいたことなどをまとめていきます。相変わらず薄~くゆる~く妄想まじりに。
以下、思考過程全部書きますので、長いです。興味がある段落だけでもご覧ください。
なお、日本酒を使用したチョコレートを以下「日本酒ショコラ」と勝手に表記します。

1.結論 日本酒がアイデンティティの表現に

まずは結論(というか希望)から言うと、日本酒は、日本人ショコラティエの方々が「自身のアイデンティティを表現したいとき」「自身がその土地に誇りを持っていることを表現したいとき」の素材として定着してほしい。と思いました。以下、体験と思考過程です。

2.日本酒ショコラの味は?

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味が気になりすぎて、まずは何点か日本酒ショコラを食べてみました。(すみません。内容は私のインスタグラムの使いまわしです。)私は食の専門家ではありませんので、感想は参考程度に。あと、全部おいしいのは当たり前なので書きません。

 2-①モロゾフ✖清水清三郎商店 作

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商品名:日本酒トリュフ「吟香」
日本酒:作 純米大吟醸 槐山一滴水

価 格:3個入り 648円 
特 徴:日本酒の華やかさを生かした上品の王道。

神戸に本社を置く老舗洋菓子メーカー「モロゾフ」と三重県鈴鹿市のこちらもいわずと知れた老舗「清水清三郎商店」銘柄は「作 槐山一滴水(ざく かいざんいってきすい)」。

(感想詳細など)
外見はビターチョコ。中はクリーム状のホワイトチョコ。
ビターチョコの深い香りと歯ごたえの後にクリーム状のホワイトチョコが溶け出し、日本酒のとても華やかな香りとアルコール感が来ます。
日本酒のおかげか、ビターチョコのおかげか、ホワイトチョコながら必要以上の甘さが残りません。
若干日本酒の風味を残しつつ、消えていきます。
これが王道なんだろうなと納得させられる安定感と上品さを感じました。

 2-②和楽紅屋✖旭酒造 獺祭

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商品名:獺祭抹茶トリュフ
日本酒:獺祭 純米大吟醸 磨き2割3分

価 格:4個入り 1,620円
特 徴:抹茶、チョコ、日本酒の風味のコントラスト。

辻口博啓氏が展開する和スイーツブランド「和楽紅屋」と、山口県が世界に誇る「旭酒造」の「獺祭 磨き2割3分」。さらに京都府産の抹茶。

(感想詳細など)
小物好きにはたまらないキレイな小箱入りで和を感じます。
箱を開けると濃い抹茶の香。
口に含むと抹茶の苦みと香りの後に日本酒の風味とアルコール感。
そしてしっかり甘いチョコレートの風味を感じた後に、ちゃんと残るお米の後味。
風味のコントラストが凄いです。後味のお米感が想像以上にしっかりあって驚きました。

 2-③サダハル アオキ✖中島醸造 小左衛門

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商品名:トリュフ サケ ドゥ ギフ
日本酒:小左衛門 山廃本醸造無濾過生原酒

価 格:5個入り 2,646円
特 徴:日本酒とチョコの融合!複雑で妖艶な風味。

東海地区出身で、世界大会で数々の受賞歴を持つ青木定治氏「パティスリー サダハル アオキ パリ」と岐阜県の進化する老舗「中島醸造」の「小左衛門」。チョコはイタリア「DOMORI」社製。

(感想詳細など)
東海地区を元気づけたいという青木氏の思いから今回できた作品とのこと。
容器に簾を用いる一工夫が光ります。
表面の粉糖の優しい甘さの後に日本酒の香が来ますが、その後は多様で複雑な風味を感じて消えていきます。
説明書きを引用するならば「杏、ハチミツ、レーズン」のような香りとのこと。私の味覚では言語化できません。
他の2つとの一番の違いは、日本酒がチョコ(むしろカカオ?)と一体となっており、最初の香やアルコール感以外は、わかりやすく日本酒を感じません。まさにフュージョン!といった感じです。

 2-④食べてみて感じたこと

全てに言えることは、日本酒がしっかり生きていると感じました。そして、生かし方が3種類すべて違ったことに驚きました。

日本酒本来の香りと風味を生かして上品さを感じさせるもの。

日本酒が口に含むと味が変わっていくのを利用してさらい厚い風味の層を作り出すもの。

日本酒の持つ複雑さをカカオの持つ複雑さと完全に融合させて他にはない味を作り出してしまうもの。

そして、以下は勝手な私のイメージですが、コラボしたショコラティエと酒蔵はどこか似ている、共通する部分があるようにも感じました。

モロゾフと清水清三郎商店は、商品やサービスのクオリティを向上させつつ、価格を維持し、さらに生産量を増加させるというモノづくり企業の理想型を走っているという印象です。

辻口氏と旭酒造は、各業界で十分な実績がありながら、常に新たなことを探して挑戦し続け、どんどん道を切り開いているように感じます。

青木氏と中島醸造は、同じ東海地区にルーツを持つというのもそうですが、モノづくりに対する真摯な姿勢。職人肌のようなものを感じます。なお、中島醸造は海外輸出にも力を入れています。少し前ですが、世界三大料理の一角を誇るトルコへ日本初の輸出に成功したそうです。技術で世界に勝負する姿勢も共通点でしょうか。

やはり何か共感・共通するものがあるからコラボが実現するのでしょうか。

次の段落では日本酒を離れてショコラティエについて考えてみます。

3.ショコラティエは芸術家!

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何を今更(笑)と、思われるかもしれませんが、これは今回心底感じたことです。

 3-①商品の価格

ショコラティエの作るチョコレートと、量産品のチョコレートの価格を比較してみたいと思います。(量産チョコレート菓子をばかにしている訳ではありません。)

コンビニ等で販売されているチョコレート菓子で、一番身近な大手メーカーの「アーモンドチョコレート」

24~28個入りで約230円。

対してショコラティエの作る商品。
あえて高めのものを挙げると、アムール・デュ・ショコラ(JR名古屋髙島屋)でのパトリック・ロジェ氏の「ドームアソート」

16個入りで7,668円。

価格にして30倍以上。内容量を考えたらそれ以上。
たしかに企業の効率化が可能にした低価格化と、原料原価の違い、場合によっては輸入関税などの原因はあるでしょう。しかしそれだけでは確実に埋まらなそうな価格差。

ではこの価格差は何から来るのか。

私はショコラティエが表現する世界を体験するための価格だと思いました。

 3-②売っているのは「美の体験」

今回気付いたことの一つは、ショコラティエの作品には、表現したい何らかのテーマがある。ということです。

たとえば、今回見られたのは「コロナで疲弊する地元を応援したい」「サスティナビリティ(持続可能性)を表現したい」「自身の出身地の肥沃な大地を表現したい」「自分自身の美意識を自由に表現したい」など。

ショコラティエはそれに対して最適な原材料を探し出し、視覚、嗅覚、味覚、触覚、そしてその作品に込めた思いを語ることによって聴覚。すべてに一貫性を持たせて何かを表現するために作品を作っている。そして、その表現する多くは、何かしらの「美」に関することだと感じました。

作品を買う人は、五感全てに訴えるチョコレートを通じて、ショコラティエが表現したかった美しい世界を体験する。この体験が、量産製品との価格差の正体だと思いました。

美を体感させるものを提供し、それに価格が付く。つまり「芸術家」ということです。

4.自身の作品に日本酒を使う理由

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話題を日本酒に戻します。なぜ日本酒がチョコレートに使用されるようになってきたのか。使う理由と気付いたことから考えます。

 4ー①日本酒を使ったのは日本人だけ

前回の記事で日本酒ショコラをピックアップした際に、チョコレートブランドを合わせて記載しましたが、日本酒ショコラを提供していたのは全て日本人ショコラティエ又は日本の企業によるブランドです。

逆になぜ海外のショコラティエは日本酒を使用しなかったのか。

以下推測ですが…

一つは、そもそも日本酒の認知度が海外ではまだ低いので知らない。又は仮に知っていたとしても、そこまでよく知らない素材なので使う場合リスクが大きいから。

もう一つは、日本酒が自分(海外のショコラティエ達)のバックボーンに存在しない概念だから。うまく言えませんが…心から表現したいと思えることを表現する手段に、自分の中に存在しない概念が混ざると、違和感が残り、形にはなってもそれはただ見た目だけの中身のないモノになってしまうから。そんなものを芸術家が許すとは思えません。

とは言いつつ…味という観点では、たぶん海外のショコラティエ達でも、仮に日本酒を使おうと思えば、見事に味をチューニングして芸術的な作品を作り上げる気がします。使おうと思えるのかはわかりませんが。

 4-②使用理由から見る日本酒の見られ方

なぜ日本人ショコラティエ達は日本酒を使用したのか。その理由がわかれば日本酒がどう見られているかが分かります。パンフレットに書かれていた商品説明の中からだけでも、以下の内容が読み取れます。

まず、「その地域を応援したいから」

つまり、日本酒は作られた土地を象徴する存在であり、食べた人が、自分が生まれ育った地元を感じ、誇れるように。ということ。

次に、「サスティナビリティ(持続可能性)を表現したいから」

これは酒粕を使用した日本酒ショコラに用いられた文言。
昨今話題となっている食品ロスの問題に対して、酒粕は日本酒としてアピールできる部分であるということ。

そして、「自分(使用したショコラティエ)の地元の酒だから」

これは今まで書いたことを全部合わせたような表現です。自身の出身地の酒はその土地の象徴であり、自分の中にあるもの。つまりバックボーンにあるもの。それを使用して自身が見せたい世界を表現する。ということ。

上記のような使用理由は、これからの日本酒を考えるにあたって非常に重要なことだと思います。

5.これからの日本酒とチョコレート

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今までの段落を踏まえ、最初に書いた結論「日本酒が、日本人ショコラティエがアイデンティティを表現する際の素材として定着してほしいに至った理由を書いて行きます。

 5-①冷静に考えたら、日本酒とチョコは合う。

最初は驚いた日本酒とチョコレートの組み合わせですが、両方の味の要素を考えれば、合わないことはないな。と気付きました。何を今更(笑)

理由は主原料の品種の違いと、菌類による発酵方法の組み合わせを根底として風味を構成しているからです。

実は私もビーントゥバーというものを最近知って、実際食べてみるとより実感できました。チョコレートは発酵食品で、日本酒と似ているなと。
(Minimal Bean to Bar Chocolateの食べ比べセット、勉強になりました。)

一般的にチョコというとチョコレート菓子のイメージなので「砂糖の甘さ」と若干の「苦み」そして独特の「焙煎香」という分かりやすいお菓子のおいしさというイメージがとても強いですが、カカオに主眼を置いた商品の場合、発酵によって発生する「自然な糖質の甘さ」「様々なフルーツのような香り」「酸味」そして「苦み」に加えて「焙煎香」という具合です。とても繊細な味になります。

今挙げたような味の要素は全て日本酒が持っているものです。

またまた素人の妄想ですが…
ショコラティエの方も日本酒ショコラは味を構築していくのが面白く感じるのではないかなと。
カカオの品種、カカオの発酵方法、米の品種、米の醸造方法の組み合わせを考えて、味のバランスをチューニングする。まさに可能性は無限大です。
こういうのってモノづくりが好きな人は創造意欲をくすぐられませんか?私は書いてるだけでもちょっとワクワクします。
自分が本当に作る訳でもないのに(笑)

 5-②日本酒ショコラ用日本酒

今はまだ日本酒が既製品で「コラボレーション」という状態ですが、米から醸造方法から全て特注の、「日本酒ショコラ用の日本酒」をショコラティエ本人がプロデュース。なんてできたら、素晴らしくて、面白い。

日本酒蔵の醸造技術をもってすれば可能じゃないかな…と無責任に考えてみたり。

日本酒蔵としても技術を世界にアピールできるいい機会だとも思うのですが…

 5-③サロン・デュ・ショコラで日本酒を

前回の記事で書いたように、ショコラの祭典としては国内どころか世界規模なのに、日本酒ショコラの露出が少ないサロン・デュ・ショコラ

出店している日本人ショコラティエの顔ぶれは、他のイベントと大して変わりません。しかし、日本酒ショコラがあまり紹介されていません。

理由は推測すればいくらでも出ます。
例えば、後援がフランス大使館だから、運営側が伝統的なショコラを前面に推している。
また、ショコラティエ達も本分としては伝統的なショコラの道を歩いているので、正統派のショコラで勝負する。など。
日本酒目線で言えば、開催地の東京が日本酒の産地というイメージがあまりない。
大自然の中でできるものという日本酒が持つイメージと、首都東京のイメージがつながらない。など。

実は真の理由はどうでも良くて、問題は日本酒が本当の意味で日本人のアイデンティティとなり得ていない。ということだと思います。

これは残念なことではなく、むしろ「伸びしろ、ありますねえ!」ということです。

実際のところ、サロン・デュ・ショコラのカタログで日本酒として目を引いたのは、飲食スペースでのチョコレートとのペアリングの提供です。
各種SNSの投稿から日本酒ショコラは販売されていたようですので、日本酒は物珍しさからアピールする価値はあるが、日本酒ショコラはそうではない。と運営側は考えたということなのでしょう。

前述したとおり、ショコラティエが使用する素材は、自身の中にあるものを表現してくれる食材です。サロン・デュ・ショコラで堂々と日本酒ショコラがアピールされるようになれば、海外が、日本酒を日本人のアイデンティティだと認めてくれた証なのかもしれません

その時は同時に日本酒が、日本人ショコラティエがアイデンティティを表現する際の素材として定着しているということになります。

今はまだ物珍しさから各イベントで取り上げられたという印象です。

どうすれば日本人のアイデンティティとして日本酒が認められるか…これという答えなんてありませんが、今の日本酒業界を取り巻く時流を維持し、さらに加速させることができれば、自然とみんなが日本酒を再度認知して、世界に認められるような気がします。(世界に認められることが全てではない!という思いもありますが、それは別の話。)

6.まとめ

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結論と希望としては最初に書いた「日本酒が、日本人ショコラティエがアイデンティティを表現する際の素材として定着してほしいです。

そして記事の内容をざっくりまとめるなら、

日本酒ショコラがおいしいのも、増えるのも当然のこと。
でも、さらに必要なのは日本人が日本酒にプライドを持ち、アイデンティティの一つと再認識すること。
そうすれば自然と、日本酒と日本のショコラティエを世界がリスペクトしてくれるようになるのでは。

というつもりで書きました。

この長い記事をご覧いただきありがとうございました。




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