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感想 罪の声  塩田武士  グリコ森永事件をベースに描かれた。もうひとりの真実。

ダウンロード - 2022-06-09T133635.311


キツネ目の男と言えば、グリコ森永事件だ。
この物語の中で発生する事件は、それをベースにしている。
これは一つの仮説なのだろう。

事件が時効になった現在の話し。
曽根という男が、偶然、あるテープを発見する。
聞くと自分の子供の頃の声だ。だが、そこに吹き込まれた内容が問題だった。
それはグリコ森永事件の・・・作中では違う事件だが、脅迫に使われた声だった。
身代金を置く場所を3人の子供の声を使って指示していたのだった。

罪の声とは、その子供たちの声のことです。

曽根は、真相を知ろうと探る。
父が、この事件に関与していたのかと疑うのだが、どうやら、そうではなく叔父らしい。

ここに記者が現れて、この2人の視線で物語は事件の真相に近づいていくわけだが
その部分は割愛する。
そこは、この本を読んでください。
この本の中心部分です。

気になった2点について語りたいと思います。

犯人は、お菓子に毒を入れて脅して金を要求した。
実は、犯人グループは内部で分裂していたのだった。
企画立案した頭脳明晰な曽根の叔父と、刑事の生島が主犯だが、実際に犯罪を行うには、それなりの人が必要になり、ヤクザの青木と彼の人脈を使った。
すると、青木がのさばりだし主導権争いが起こったのだ。

当初の作戦プランは、身代金の要求はダミーで
本来の目的は、株で稼ぐという方法だった。

ビン・ラディンがあのテロを起こした動機と同じである。
あの事件でアメリカの株は大暴落した。
つまり、大金で空売りをし金儲けをしたのである。

未来がわかるなら、人は金持ちになることができる。
それは幾多のSF小説の中で語られている。

つまり、この事件。毒入りお菓子を使い。この会社の株を暴落させる。意図的にだ。
空売りをかまして、下がったところを買い戻し大儲けしようというのだ。

実際の事件では、そんなことはしてないと思う。
こういう考えは、あのアメリカのテロ以降に生じた考えです。


未来に起こる出来事がわかる
予知できるということは黄金のなる木を持っているのと同じことなのだ。

この発想が、僕がこの小説で、とくに印象に残ったことの1つだった。

しかし、個人がいくら金があろうと、空売りしてもたかがしれています。
必死に10億集めたとして、それで事件が起こり暴落し20%下がったとして
利益は2億。
これだけのことして2億というのが現実なのです。

もうひとつの注目点ですが・・・
事件をたどるうちに、元刑事で主犯の生田の家族が失踪しているのを知る。
どうも生田は、ヤクザの青木に消されたようなのだ。

生田の家族には、子が二人いた。その2人の子供の声も犯行に使われていた。
彼らは、そのトラウマから逃れられない。
曽根とは違い。父親が犯人だと知っていたのだ。

生田の家族から事件の真相が漏れるのを恐れた青木は、自分のところで保護という名の監視を行った。
毎日のように、この母子をイジメまくった。
姉は、反抗的な態度をとったのか殺された。

少年の名は総一郎という。
彼は、母親がヤクザ事務所に一日中立たされて、罵倒されたり、胸を触られたりとイジメられているのを見せられた。
我慢の限界に達した少年は、よくしてくれたヤクザと2人で幹部をボコボコにし
火をつけて事務所を焼き、彼は母親を捨てて逃亡生活をする。

そして、好きな女ができても、そのことで破談になったり
病気になっても病院にはいけなくて
酷い生活をしている。

実行犯である曽根の叔父はイギリスで悠々自適の暮らしをしていた。
この総一郎少年と曽根の叔父のギャップは何なんだろうと思ってしまう。

いつでもそうだが、しわ寄せは子供にくる。
何で、こんな悲惨なことになるのかと思ってしまう。

生田総一郎と母の対面は感動的だ。
それに対して、曽根の声を勝手に使用した
こっちも母なのだが、態度の違いに驚く。

曽根の母は、学生運動をしていて、その関係で叔父とは顔見知りだった。
だから、テロの手助けとして子供の声を提供してと頼まれた時
彼女は「奮い立った」らしい。
自分もそのテロに参加できるとでも思ったのだろうか。
菓子に毒を入れるのがテロなのだろうか。
株の空売りがテロなのだろうか。
こんなものは正義ではない。
だいたいテロに正義なんて存在しないと思う。
自分の子供を何だと思っているのだろう。
一生、取り返しのつかない傷を負わせるという事実に気づかないのだ。
馬鹿じゃないかと思った。

事件の想像部分よりも、僕は、この2人の犠牲者の母親の立ち位置が気になった。
曽根の母親には呆れるしかない。

2022 6 23
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