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書評 重力ピエロ 伊坂幸太郎  本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ。

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「春が二階から飛び降りた。」。この意味深な言葉が、冒頭と結末に配置されている。
この小説には、よく似たような表現が出てくる。
まるで、それはDNAの二重らせん構造のようである。

この物語は、放火と落書きと遺伝子の物語のようであり、家族とは何かを問いかける物語なのだ。

泉水と春は兄弟だ。
しかし、父親が違う。
春の父親は、彼らの母親をレイプした少年だった。

放火事件が多発する
その前に、犯行を暗示するような落書きがあった
兄弟は、犯人を探るべく、その暗号解読に挑む

謎解きミステリーとしての魅力
これは暗号解読である

そこにネアンデルタール人とクロマニオン人の違い
桃太郎の解釈に、ガンジー。まさしく伊坂ワールドである。

放火に絡めた話しで、三島の「金閣寺」が紹介されている。
あの物語において、主人公が金閣寺が焼けたら世界が変貌すると言っていたが
そこから、このセリフが生まれたのだろう。

人間が世界を変えるために使うのが、火なんだ

人類の進化の過程と三島の金閣寺をコラボさせている。
そう、火が人類に多大なる影響を及ぼした事実は存在する
そして、火を見るたびに人は興奮する
それは人のDNAの中に刻まれた何かの記憶なのだろうか?

この放火犯人は、いったい何を変えようとしているのか?。
彼の世界はどういう世界なのか?

人は重力という重みによって
地面に足をつけて生きている
その重力は、世界の規範なのかもしれない
しかし、その規範は個々の間で微妙に違う解釈をされている

放火犯は、まるでピエロのように、その重力の縛りを無視しているのか?

春が産まれて来たことが正解かどうかと問われれば、私は迷うことなく、「正解だよ」とうなづくだろうが、つづけて、「では、お前の母親は少年にレイプされたのもよしとするのか」と訊ねられたら、今度は、首を横に振るだろう

正解なんかわからない・・・と父は言う

だが、レイプ犯人の実子である春の生きている世界では
その生い立ちは重力として
そのDNAは意識されるのである。

まるで、また裂きのような2重の価値観が並列的に存在し
それは自己存在すらも許容できぬ得体の知れぬ何かに成長し
それは、たぶん、他者には理解できないことであり

だから、こそ、この物語はおもしろいのだ。
ミステリーとしてだけでなく、人間物語としても
とても優れた作品だったと思います。


映画化されています


2021 5/2



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