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書評 水と礫 藤原無音  文藝新人賞受賞作品。新しい小説の形に挑んだ意欲作だが・・・。

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1,2,3のパートがあり、その繰り返しと過去と未来への膨張です。
クザーノという男が東京に出て失敗し故郷に戻ってくる。だが、未知の夢を求めて砂漠に出る。遭難し救われた町で家族を持つ。これが基準の話し。
クザーノの父、祖父・・・と話しは過去に基準点を移動していく、未来の方もクザーノの子、孫・・・と。話しが毎回膨張し最初から繰り返される。最初から最後まで語られる。その繰り返し。ただし、話しは毎回同じということではない。
それは水が水蒸気になるみたいに膨張しているという風にもとれるし
人類が太古の昔から憧れて来た拡大の思想
未知への憧れなどをメタファーとして示しているのだと思います。

この水というか湿度=日本社会の湿度への嫌悪感であり
砂漠に出る行為の比喩は、そこから逃れたいという願望だと思います。

いかにも賞を獲りにいっているという作品でして
もちろん受賞は妥当ですが・・・
実際、この構造はすごいし発想もすごい
話しが広がっていくとともに、湿度も高まっていく
こうあるべきだ・・・みたいな感覚です。
モチーフにも共感できるのですが、どうしても最初からリセットして全てを語るということになると
毎回鬱陶しい重複説明部分に付き合わされることになり、3回もこれが繰り返されるとウンザリしてくる。5回になると辞めてくれと言いたくなる。奇をてらい過ぎと思いましたが、形が新しいから、もしかすると芥川賞候補とかになっちゃうのかもしれません。
途中、退屈になるところがあるし、祖父の神父さんのパートで奥さんが毎夜、街の童貞の少年たちをベットに導くくだりは、あまりにも下品だし必然性もなくて何の比喩なのかも不明。奥さんの死体の精液を神父さんに始末させるのは何かの罰なのでしょうか?。そういう意味不明なシーンが、いくつもあったし、甲一は何を意味しているのかもわからないので、単にそういう人を出してみただけなのかとも思えてしまう。
小説の形や考え方はいいが、あんまり好みじゃなかったです。

作者の藤原さんは、マライヤ・ムーという別名義でライトノベルの文章を担当。
タイトルは、「裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する」
こっちもおもしろそう・・・。

2020 10/17


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