感想 夢を売る男 百田 尚樹 自費出版ビジネスの是非について問うた話し、それは悪徳な金儲けなのか、それとも夢を叶えるための仕事なのか?。
本が売れない、書店が潰れているという話しを、東日本の震災あたりからよく聞くようになった。
よく通っていた地元書店も閉店した。電車の中で本を読んでいる人をほとんど見かけなくなった。
本離れはかなり深刻です。
本書は、そんな時代に産まれた新ビジネス。
自費出版の裏側に肉薄した物語だ。
主人公は、丸栄社の敏腕編集者牛河原という中年男だ。
最初、僕はこいつは詐欺師だと思った。
しかし、最後まで読むとそうではない。
タイトルの夢を売る男。そういう人なのだと感じた。
彼はこういうことをしている。
新人賞がある。
そこに応募してきた作家もどきに電話し、最終選考の七作まで残りましたと嘘をつく。
落選したが、私はあなたの作品が一番だと思いました。
そこで提案です・・・と、ジョイント出版。会社と著者が半々で費用を折半し本を出しましょうと提案する。
これはもちろん方便である。
この会社は自費出版の会社なのである。新人賞は餌なのです。
ただ、出版するに嘘はない。1000冊作り、契約している本屋の店頭にも並べる、印税も払う、担当の編集者をつけマンツーマン指導をする。誤字脱字もきちんと訂正する。
その人に才能はないかもしれない、その本は万人に受けないかもしれない、それでも本にしてくれる。
もちろん、中にはベストセラーになる本もある。
著書はたぶん、小説や本などは、もう時代にマッチしていないオワコンなのだと考えているのだと思う。タイパが重視される今の時代、300ページだいたい5時間の読書時間を要する小説を読むという行為はなかなか許容されないということなのか。
これが生きがいの僕のような変人にはタイパとかよりも、もっと大切なものがあると思うのだが、たぶん、そう感じない人が大半で、だから本屋はなくなりつつあるのかと感じる。
それと昔と比べると本が面白くなくなっている。
これも理由ではある。
牛河原はその理由をこう分析する。
これが小説が売れない理由だそうだ。
儲からない。だから才能のある書き手が減った。だから、読者が離れて行った。さらに儲からなくなる。悪循環だ。
なのに、小説を書きたい。本を出したい奴は増加の傾向なのだそうだ。
その理由をこう分析している。
承認欲求の化け物たちが、まるでゾンビ映画のゾンビみたいに溢れている。
SNS、投稿サイト、ユーチューブバー。
確かに、そんな世界で小説を読むという受け身の人々は絶滅危惧種なのだと思う。
作家の格差が広がっているとも牛河原は指摘する。
ほとんどのプロ作家の年収はフリーター程度なのだという。
牛河原の仕事は、本を出したい人をおだて、ジョイントで本を出させる仕事。
一冊の本を出す場合、費用は平均で200万程度。
ライバル会社が出現します。
その会社は費用が安い。だから急激に顧客を増やしている。
しかし、編集はつかない誤字脱字も直さない。表紙の絵は美大生の落書きレベル。
1500冊作ると言って500冊しか作らないし、店頭にも並ばない。
この詐欺同然の会社と牛河原の会社を対比すると、牛河原たちの会社はましだと感じます。
牛河原たちの仕事は、作家志望の客の夢を叶えるための仕事です。
問題は、それが売れるかどうかとか、才能があるかどうかを問わないところ。
金を出せるのなら、何でも出版するという拝金主義的な態度にあります。
でも、顧客が満足するのなら、これは悪くないと僕は思う。
200万で夢が叶うというのなら、僕なら、それは高くないと思う。
それも一つの承認欲求であり、ネットで無作為に金をばらまく売名行為や、野球道具を学校に寄付したり、何百億の金を使い月旅行に行くとの何も変わらない。
だとしたら、200万で作家の端くれになれる、この出版という行為は安価で自分を満足させられる行為かとも思う。
最後に、貧しいおばあさんが書いた本を部下の編集者がどうしても本にしたいと言ってきます。
それをお金をとらずに出版すると決める牛河原。
編集者がどうしても本にしたいという本なら、それは本にせずにはいられない。
この牛河原の態度が好きです。
2024 7 12
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