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感想 映画 ドライブ・マイ・カー

カンヌで賞を取ったと聞いたので見に行ってきた。


久しぶりにいい映画を見た。
村上春樹の小説が原作らしく、それっぽい雰囲気がある。奥さんの語る脚本がとても魅力的であった。途中で死ぬ浮気妻は霧島れいかがやってて、とても魅力的であった。大人の女性の魅力を十分に発揮していた。そして、彼女が作り出す やまが の物語。僕はあの話しが好きだ。

その物語は やまが の話しで,
やまが のことが好きな女の子が彼の部屋に勝手に侵入するという話しだ。
本当は彼の部屋でオナニーがしたいが、しない。彼女にはやっていいことと駄目なことが厳密に決まっているのだ。
やっていけないこと、やまが の部屋でHなことをすること。
やっていいこと、やまが の部屋に入り込むこと。

妻は、女優だったが娘の死で廃人のようになっていて、今は脚本家として復活している。この奥さんは痴女だと思う。もしくは心の病。脚本を作る時、SEXしながらしか書けないのだ。


1時間くらいでクレジットが流れる。妻が死んだところでだ。もう終わりかと思ったら、そこからが本番だった。

妻の本性と主人公の役者で演出家の家福役の西島秀俊が向き合う場面がはじまる。岡田将生が少しストイックな役者を演じていて、彼の神経を逆なでする。そして、三浦透子が演じるドライバー。死んだ娘が生きてたら同い年。彼女はとても不幸な女性。母親を見殺しにした過去がある。主人公と彼女が出会うことで、更に物語は深みを増す。

村上さんの原作では、主人公が緑内障になって仕方なくドライバーを雇うということだったんですが、今回は演劇祭のルールでそうなったとの強引な説明でした。つまり無理から押し付けられた彼女が、最後は本当の娘みたいな信頼感、これがいい。

主人公は演出家として広島で「ワーニャ伯父さん」の芝居をやる。この家から稽古場までの1時間の通勤のドライバーが三浦透子の役柄である。乗車中、主人公の家福はずっと妻の吹き込んだ「ワーニャ伯父さん」を聞いている。これはもう誰も幸せにならない悲惨な話し、それは主人公の西島秀俊演じる家福と三浦透子演じるドライバーに投影されている。不幸のどん底の二人が「ワーニャ伯父さん」の朗読をエンドレスで聞いているのだ。これぞ無限地獄ではないのか。

そして、岡田将生から語られる未完成の物語の結末。妻の脚本。

やまがの話しだ。つまり、妻のあの魅力的な やまが の話しが実はとても大切になってくる。夫の知らない続きがあったのです。

つまり、浮気相手が岡田将生であるということです。SEX中しか物語が産まれないのですから。


この物語の大切な軸が、やまがの話しだと思う。岡田将生が語った話しでは、彼女は やまが の部屋でオナニーをした。つまりルールを破った。それを強盗に見られて強盗にレイプされかけたので殺した。死体をやまがの部屋に残したままで立ち去る。なのに、何のニュースにもなっていない。何もなかったかのようである。1つ変化があった。やまがの家に防犯カメラが設置されたことだ。その防犯カメラに向かって彼女は私が殺したと囁く。

この奥さんの脚本の結末は意味深だ。

夫である西島秀俊は知らなかった部分だ。
彼は、公演が延期になった日、妻と岡田将生が浮気をしている現場を目撃した。
彼は知らないふりをし生きていたが、妻は気づいていたのではないかと僕は思う。死んだ、あの日、妻は彼に話しがあると言った。だが、妻を失うのが怖かった彼は、夜遅くに戻った。そして、彼女は心不全で死んでいた。

これは仮説なんだが、妻は夫の態度の変化に気づせいていたと思うんだ。だから自殺した。

自分の裏切りを知っても態度を変えない夫。それは やまが の話しに通じるところがある。強盗を殺したのになかったことになっている。浮気したのになかったことになっている。
何をしてもなかったことにされてしまう。それは自分の存在に意味がないということ、自分は無力だということ。
妻は、強盗を物語の中で殺した。この強盗は自分なのではないかと思われる。これは自分を無視する夫に対する抗議だ。
そんな妻の録音したワーニャ伯父さんのテープを、母親を見殺しにしたドライバーと妻を客観的に殺した家福がエンドレスで聞いているという構図はある意味スゴイ。地獄絵図だ。

これは妻の死を乗り越える物語。何故死んだのかを知る物語。理解する物語。それは自分の感情と向き合う話しだ。

たぶん、10年後に見たら違う感想を話すと思う。それくらい難しい話しだつた。でも、確実に僕の心に爪痕を残した作品。
しかし3時間は長すぎる。


ラストシーンも意味深だ。家福の愛車に乗っていた三浦透子。韓国である。さて、二人はどうなったのか?。とても気になるラストシーンだった。

これも仮説だが、ドライバーの彼女は家福のドライバーを今もしているんだろうなと思った。でないと家福の車に乗っている意味が不明になる。

つまり、人はどんなに絶望しても生きていかねばならない。
そういう物語。

映画と原作を比較する企画。


2022/03/20


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