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感想 ラブカは静かに弓を持つ  安壇 美緒 2023年 本屋大賞 候補作、 第2位。音楽教室にスパイという設定が秀逸です。いい先生なので葛藤も半端ない。音楽の力というものを感じました。

武器はチェロ。
潜入先は音楽教室。
主人公は精神内科に通院中のスパイ。

何だ、これ。アニメみたいな設定だなというのが第一印象でした。
音楽教室で使用される楽譜にも著作権料を取るということで調査に入ります。
どういう実態なのかの把握が仕事です。

しかし、彼はこの先生の優しさや人間性の善良さに引き付けられて
気がつくとスパイであるということを忘れていて、ただの生徒として仲間と交流し、音楽に前のめりになっていく。

でも、仕事ですから、最終的には裏切るのであり、葛藤があります。
その葛藤の描き方や、それを許す仲間たちが素晴らしい。

楽器を奏でている主人公が、こんなことを感じるシーンがある。

家と会社の往復では見られない大海原の景色が頭の中でふっと広がる。


ストレスで不眠症だった彼が、任務であるはずの音楽教室のスパイの仕事をしている中、楽器の演奏に没入していく様がわかります。

尊敬する先生であっても、音楽で食べていくのは辛いという現実がわかってくる。
彼のスパイという仕事も良心の呵責で苦しいが、どんな仕事も苦痛のないものなどない。

本人が納得のいく形で生きていくのは難しい。


というベテランの生徒さんの言葉は身に沁みます。



2024 5 22




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