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感想 デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士   丸山 正樹 聴覚障害者の世界がリアル。NHKでドラマ化ということで、こちらも楽しみ。


NHKでドラマ化ということで先回りして読んでみた。
ミステリーとしては、まぁまぁだが、裁判の手話通訳という聴覚障害者という特殊な世界を見事にリアルにディテールまで細部にわたり表現されていてとても良かった。

コーダ という映画を昔見たことがある。
コーダとは、聴覚障害者の家族の中の健常者の子供の話しだ。
すべてを押し付けられる子でもある。

本書の主人公の手話通訳の男もコーダだ。
彼は警察官時代に、容疑者の手話通訳を押し付けられた。
その時、障害者に対しての警察の理不尽な取り扱いに憤りを感じた。

明らかに黙秘権すら理解してないのに話しをすすめ
自分勝手に供述を進めている
あれじゃ、まともな取り調べになっていない

裁判の時、娘が二人被告人にはいて
妹のほうと目が合った。あなたは私たちの味方ですかと問いかけていた。

手話通訳になってから、自分が関わる事件に、ある施設が関係してくるとわかる
その障害者施設の評判を聴覚障害者たちに質問した時、彼は同じ質問をされる

君は、私たちの側なのか?

彼や普通の理屈では、正しいほうの味方であり、それが正しいか間違っているかが大切なのだ
しかし、差別や偏見に常にさらされている彼らにとっては、大切なのは自分たち障害者の側の人間か、あちら側の人間かなのだ

ここに描かれているのは、両サイドのコミュニティの断絶です
健常者にとって障害者は存在としてはあまり注目する必要のない人たちなのですが、差別されている障害者にとっては、健常者はあちらサイドの人間なのです。

だから、自分たちの味方かそうでないかはすごく大切になります。

この意識が描かれているとないとでは、この作品の見え方がかなり違ってきて
最後の彼女の罪の告白の場面でも、手話でなされることで健常者にはわからないようにしているところとかを見ても、それがわかります

荒井尚人はどちらなのか。

それは極めて障害者寄りに見えますが、本質は元刑事なのです。
だから真実を隠蔽したりはできない。
もし、彼が犯人家族の悲惨な過去に同情し、彼らサイドに飲み込まれていたら、この物語は成立しない。でも、葛藤はある。迷いはある。そのとまどいが描かれているところに僕はこの物語の面白さがあるのだと感じました。

ミステリーとして読むと単純です。
障害者の立場の理不尽さを主張した小説と読むと優れた作品だと思います。


2023  12 16



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