見出し画像

感想 麦本三歩の好きなもの 住野よる 麦本三歩は嫌いなものの話しではなく、好きなものの話しをしたいと思っている。究極のポジティブ小説。

画像1

たいしたことは起こらない。
麦本三歩は図書館に勤める女の子だ。
毎日、好きなものだけを見て生きている。

この本は、麦本三歩の好きなものだけで構成されている。
嫌いなものの話しではなく、好きなものの話しをしたいと思っている。
麦本三歩は幸せだ。
この小説を読んでいると、何となく幸せな気分になれる。

この小説は、幸せの形の1つを描き出しているのかもしれない。

彼女は少し不器用だ。
彼女の言葉に面白いのがあった。

「20文字以内で説明できる本はいい本だ」
確かに、その通りです。

茶髪の利用者さんに、ある本を探していると言われる。
だが、なかった。
その彼女を慰めようと頭をしぼって、やっと紡ぎ出した言葉がこれだ。
「いい匂いをしてますね」
さらに麦本三歩は続ける。
「図書館みたいにいい匂いです・・・」

そう、彼女は自由だ。独特の自意識の中で生きている。

好きなものに対する執着はすごい。
例えばラーメン。

リングに上がるボクサーみたいな気分でラーメンを食べる。
どんな気分なんだろう。
彼女にとって好物との対峙は常に真剣勝負なのだ。

心の中の妄想タイムが面白い。
天然で優しいおっとりした感じの麦本三歩だが、けっこう毒舌だ。
少し紹介する。

クレームを入れてきた態度のでかい先生に対して・・・

その長い髪の毛に百科事典を結びつけて海に鎮めることが出来たらと思う。

もうひとつ

てめえのアキレス腱をえぐりとって口にねじり込んでやる

毒舌モードの妄想が笑える。

恋愛観も共感できる。
先輩の絵本読み聞かせ会に参加した。小さい男の子と女子が彼女の膝に乗って話しを聞いている。
その女子が立ち去る。男子はその女子が好きだった。
心の中で麦本三歩は毒づく

「目当ての女の子にだけ優しい男はモテないんだぜ! 」

彼女のやっていることは、一見無意味のように思える。
しかし、そんな無意味なことと、意味のあることが混じって何か意味のあることになっているように思えた。


無意味な日々も、意味ある瞬間もどっちも大切で、それが一番いいということなんだ。


この小説の中で1つだけ、他とは違う感じのパートがある。
ズル休みをするパートだ。

それを先輩の一人に目撃されてしまう。
その先輩に相談する。

自分に自分でひいてて、それをどうにかしたくて・・・

あくまで、彼女の問題は自分の問題だ。
他者に対する悪いという気持ちじゃなくて、自分の問題なんだ。

そんな彼女に先輩は、あなたのことは最初から嫌いだったという。

ズルいことや、嘘はみんなすることだ。
そんな風にしてみんな生きている。
それを自覚しているのか、していないのかが問題だというのだ。
自覚していない=天然=三歩

だから、先輩は嫌いだと言った。

人から言われて、実感する。分かっていることと、実感することは、似ているようで違う。

と三歩はこころの中でつぶやく。

「でも、私に言わせたらさ、三歩は天然じゃなかったとしても、もっとずるいことをいつもやってると思うんだよ」
「今まで生きてきて、三歩だから許されてきたことって、あるでしょ?」


三歩だからしょうがない。
ミスをしても、何をしても三歩は先輩たちに許されてきた。
もちろん、無自覚なのだ。三歩としては。
それが許せないと先輩は言う。

三歩は自意識過剰で他人があまり見えない、見ない。
自分の好きだけで生きている。
嫌いなものには毒舌を浴びせかけ・・・心の中で・・・
世界の外に弾き出す

彼女は特別な存在として周囲に認識されていた。
三歩だから・・・
ここが先輩の許せないところ
背景にあるのは嫉妬心だろう。

三歩のような自由人は常に、この他者の嫉妬と戦わなきゃならない。
これが幸せの代償なのだ。

印象に残った言葉を・・・

怖い。一瞬でもそう思ったことを自覚してしまえば、感情は一気に大きくなり我が物顔で体内に居座る。

折返し地点なんてきっとない。
今日も前に進んでいなくちゃ、今日これから起こる楽しいことを味わえない。


2022 6 2
* * * * *



この記事が参加している募集

#読書感想文

187,854件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?