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感想 猫を棄てる父親について語るとき  村上 春樹 結果は起因をあっさりと呑み込み、無力化していくという言葉が印象に残った。



村上春樹、父を語る・・・。
神戸出身の村上さん。
父は、京都の僧侶の子で、戦争にも行ってて、帰国してからは教師をしていた。
村上さんとは相性が悪くずっと疎遠だったらしい。

冒頭の猫を棄てに行く話しのインパクトが強い
家に戻ると、捨てたはずの猫が戻っていた。
その姿を見ると飼うしかないと思ったそうな。

この捨てるという行為が、このエッセイの核の一つだと思う。
父は、小さい時、他所の寺に養子に出た。しかし、すぐに戻された。そのことは聞いても語らない。
棄てられるということは子供にとってトラウマになっていたのではないかと村上さんは推測する。

フランソワトリュフォーの伝記を読んだ時、彼もまた、幼少の時に両親から離され、ほとんど邪魔なものとして放置され、他所に引き取られたことを知った。そして、彼は生涯、捨てられるというモチーフを生涯、作品を通して追及することになった。人には、おそらくは誰にも多かれ少なかれ忘れることのできない、そして、その実態を言葉ではうまく人には伝えることのできない重い体験があり、それを十全に語りきることのまま生きて死んでいくものなのだ。


もう一つの核は戦争だ。
父が戦争にとられた話しだ。
母には、好きな人がいたが、その人は戦死している。
戦争がなくば村上さんは産まれてはいない。


「降りることは、上がることよりずっと難しい」


木の上にいる猫を見て考えた言葉だ。
この言葉も印象に残った。
やり始めることは簡単だが、やめるのは難しい。

それは戦争でも、喧嘩でも何でも同じだ。


「結果は起因をあっさりと呑み込み、無力化していく」という言葉も心に残った。

村上さんらしい、少し捻くれた感じがあるエッセイだった。
わざわざ、父とは疎遠だつたなんて書かなくてもいいのに。



2023 7 25



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