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感想 風の港  村山早紀 空港を舞台にした癒やし系の不思議な作品群。これぞ村山マジックって感じでした。

村山さんの作品は、いつも何かの癒やしを読者に与えてくれます。
安心して読んでいられる安定感がある作家さんです。


今回も少しファンタジー色が強い短編集。
テーマは空港での出会いと別れ。

そこに降り立ち、飛び立つまでのひととき。
旅人たちの人生が交差し、奇跡が起こる。


第一話 旅立ちの白い翼
第二話 それぞれの空
第三話 夜間飛行
第四話 花を撒く魔女

三話の「夜間飛行」
1933年、ジャック・ゲランによって生まれた香水の名が〈夜間飛行〉。
サン·テグジュベペリの小説『夜間飛行』から創作された、多彩な表情を見せる香り。

二人の女性が空港の本屋で再会する。
30年ぶりくらいでしょうか。
一人は有名女優、もう一人は新人作家。
女優と作家は子供時代親友だった。女優が子供の頃につけていた香水が夜間飛行。
親友なのに、別離してしまった理由。それは空港での別れのエピソード。
その真実が衝撃的。まるでベルギーのあのチョコレートみたく甘くて優しい話し。
ちょっと感動すらします。

二話 それぞれの空は、本屋で働く女の子が子供の頃に迷子になって助けてくれた書店員女性の記憶
ドッペルゲンガーなんだけど、何か困っている自分を大人の自分が助けるという
いい話しなんですよ。

一話 旅立ちの白い翼
これは名作です。いっせいを風靡した漫画家だが落ち目
かつて恋人を親友に奪われてしまった過去がある。
今は、漫画家を廃業し実家に戻る途中
しかし、飛行機が遅れていて似顔絵を時間潰しに書いてもらうことに

この似顔絵師と漫画家のやりとりが素晴らしい

ネタバレさせます。注意!!。

夢を諦めて実家に帰るという漫画家に対して、似顔絵師は惜しいと言う。
彼の漫画が好きだったと・・・。

「夢、諦めなけきゃいけないんですかね?」
老紳士はいまは目を上げ、ひた、と亮二を見据えるようにしていた。
「夢の卵を抱えて、いつか孵る日を待つ人生というのも良いかと思いますよ。夢を見ることを諦めるのは、いつでもできますのでね」
「いやでも、俺の漫画家としての人生は、失敗に終わったと、その、思ってまして」
「人生に失敗とか、バットエンドとかってあるんですかね。生きているうちは続いている連載漫画みたいなもんじゃないかと思うんですが、そう勝手に打ち切らなくても」
「・・・人生という漫画の読み手は自分、描くのも自分、読者の気がすむまでは夢の卵を抱えていてもいいんじゃないですか?」


元有名漫画家だという似顔絵画家のこの言葉は胸にささる。
漫画家は、そこに元カノと親友の結婚式の似顔絵を発見
二人は空港で式をあげ、君が来るのをいつまでも待っていると言っていた。
漫画家は自分の似顔絵をその横に飾ってもらう
そして、この後、二話の主人公の書店員と出会う。
彼女が、彼の最後の作品に情熱的なポップを書いていて・・・

この話しは読んでて熱くなりますよ。


2022 4 29



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