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感想 スピノザの診察室 夏川草介 この作品こそ、本屋大賞を取るべきだったと思う。『神様のカルテ』シリーズに続く医療もの。面白かった。
本屋大賞の候補になっていた作品だが、大賞作より個人的には優れていると感じた。
著者の代表作は『神様のカルテ』だが、あのシリーズは名作で映画にもなっています。
本作も医療ものでした。
京都の原田病院で働く医師、雄町哲郎は甘いものが好きな名医。妹の死によって甥の龍之介を引き取ったことで大学病院を辞めた。
先輩医師の花垣のゴリ押しで南という研修医を押し付けられる。この二人のやり取りが良い。
金のない辻さんの免許証の裏に書かれていた文字、遺書がたまらなかった。
そんな辻さんに先生は呟く。
「お疲れ様でした。」
この言葉に鳥肌がたった。
それにしても、どうしてスピノザなのだろうか。
哲学者の中でもスピノザはマイナーな存在で、哲学好きの僕でも、よくわからない人なのです。
医療がどれほど進歩しても人間が強くなるわけじゃない。技術には、人の悲しみを克服する力はない。勇気や安心を薬局で処方できるようになるわけでもない。そんなものを夢見ている間に、手元にあったはずの幸せはあっという間に世界に飲まれて消えて行ってしまう。私たちにできることはもっと別のことなんだ。・・・きっと、それは・・・暗闇で凍える隣人に外套をかけてあげることなんだよ。
世界にはどうにもならないことが山のように溢れているのだけれども、それでもできることはあるんだってね。人は無力な存在だからこそ、互いに手を取り合わないと、たちまち無慈悲な世界に飲み込まれていってしまう。手を取り合っても世界を変えれるわけではないけれど少しだけ景色は変わる。真っ暗な闇の中に束の間小さな灯りがともるんだ。その灯りは誰かを勇気づけてくれる。そんな風に生み出されたささやかな勇気と安心のことを人は幸せと呼ぶんじゃないか。
こんな希望のない宿命みたいなことを提示しながら、スピノザの面白いところは人間の努力というものを肯定したところにある。すべてが決まっているなら努力なんて意味がないばずなのに、彼は言うんだ。だからこそ、努力が必要だと。…人間にできることはほとんどない、それでも努力をしなさいってね。
こういう言葉の中にスピノザの考えが含まれているのかなと感じました。
終末医療を題材にする章が多いのが夏川さんの作品の特徴ですが、そういう視線だからこそ、スピノザなのかなと感じました。
2024 6 24
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