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書評 御用船帰還せず  相場英雄    貨幣改悪の悪レッテルを貼られた荻原重秀の物語。読み終えた後、彼の評価が180度くらい変わる。

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荻原重秀って、貨幣を改悪してハイパーインフレ起こした悪人という印象が強い。
本書によると、元禄のこの時代、日本の金山はかなりヤバい状況。
経済政策としては、必然であったのでした。

兌換紙幣というのがある。これは、いつでも金と紙幣を交換してもらえる制度だが
今の日本は不換紙幣だ。金とは交換してくれない。
1万円の価値を政府が保証することにより、紙幣はその価値を担保されている。
ようするに、信用なのだ。
江戸時代においては、考え方が兌換紙幣と同じで
1両=その価値のある金の量
にきわめて近いもので小判はできていた。それは日本にたくさん金山や銀山があったからだが、この時代には残りが見えてきた。
そこで将軍綱吉は、どうにかしなくてはと考えた。
それが荻原の貨幣改悪。つまり、金の含有量を減らす政策だった。

でも、民衆はいきなりそんなことを納得がいかない。
詐欺だと思う。犬公方が犬を飼う費用を捻出するためと思う。
そこで、この物語の主人公の荻原は、仲間の4人とともに1つの策を考えた。
それが佐渡金山からの金の運搬船。つまり御用船を奪還する計画だ。
大量の金が消えたとなると、もう小判の質を変えざるおえなくなる。
そういう理屈であるが、これを将軍にも内緒でやる。

だから、北町奉行や老中やら隠密やらを敵に回し
対立構造が出てくる。
それで、この善玉と悪玉の神経戦。battleが展開するのだ。
物語に悪が出て来て、正義とハラハラドキドキの心理戦をやるのは
おもしろいドラマの真骨頂である。
だが、この物語の悪はかなり鋭い。というか、こんな偶然ないし、こんなに北町の与力は有能だとは思えない。まるで戦国時代の軍師黒田官兵衛なみなのである。くのいちを相手方に侵入させるとか、それも10年近く。たかが与力と隠密同心1人のできることでない。
相手は、将軍が目にかけている勘定吟味役兼佐渡奉行ですよ。

とにかく、この神経戦はラストまでどんでん返しを繰り返しながら楽しいのです。
にしても新井白石の描き方がひどい。あれじゃ、ただのヒステリック石頭である。
歴史的な評価では、立派な人だということだよ。

対立軸は、旧体制の人間と新しい経済中心主義。
今でもある課題だ。
新井さんたちの一派は、家康の時代の掟を変えてはいけないという現状維持派。
荻原たちは、経済中心主義でどんどんいいものを取り入れようという考え方。
対立するのは当然なのだ。

悪の中心人物の柳田なのだが、頭がいいようにも思えない。
なのに、隠密の高木と組むと最強になる。
何なのかわかんない。
最後まで、柳田達が、どうして必死になるのか理解できなかった。
そこまで現状維持にこだわる理由は何なのか?。
賂を貰っていた友人の代官が、荻原達に証拠を押さえられ切腹するが
その時、スリに懐の秘密文書を奪われコピーされるのだ。
それを卑怯だ。極悪だとのたまうのだが、賂を貰っているのが悪だと思う。
ようするに、利権の問題なんだと思う。自分たちの既得権益を潰す男の出現が許せなかったのではないのか。
だとしたら、これは何なのだ。よくわからない話しになってくる。

2020 8/21




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