見出し画像

書評 赤と青とエスキース 青山 美智子

ダウンロード (79)

エスキースとは「下絵」のことである。
たぶん、恋愛でも創作でも何でも、この企画の段階が一番楽しい。
気楽にアイデアが出せて、ここから手直しも自由に可能だからだ。

いざ、完成となると、いろんなプレッシャーとか責任感が生じる。
純粋には楽しめない何かがある。
恋に恋する乙女が、実は最強だったりする。
理想の男性を手に入れた女子は、その理想とはかけ離れた彼氏の実態やら
浮気されるのではという不安に辟易するのだ。

4つの短編から構成されていて、それは「エスキース」というタイトルの絵によって繋がっている。
エピローグで、それが種明かしされるが、些か、強引ですらあり正直に言うと何やねん、これと思った。

最初の話しは、「エスキース」という絵のモデルの女の子
はじまりの話しだ。
これは切ない。
オーストラリアに短期の語学留学をしている女性と、現地の日系男性の恋物語だ。
期間限定の恋。
彼ら流に言うと「竜宮城」の恋。
つまり、日本に戻ったら夢みたいに消えてなくなる。そういう恋。
本当に?。
わりきっているつもりでも、やっぱ、別れは辛い。
その切なさが文字に投影されていて、とてもいい短編になっている。
これは読む価値あり。

始まれば終わる。そんなことはみんな知っているはずなのに、気づかないふりして、あるいは終わりなんかこないってそのときは本気で思って、かんたんに人を好きになったりする。
・・・そんなふたりが世界中にあふれている。鍋の中に沸いた湯のあぶくみたいにぽこぽこと、あちらこちらで始まっては終わっていく。


彼は、親友の画家のモデルになってくれと彼女に頼む
その絵が「エスキース」だ。

それは写真のような思い出を残さない
意図的にそうしている彼女に対する抵抗なのかもしれない。
だって、日本に帰ったら、そんな恋は夢みたく消えるんだもん。
だから、記念に友達に彼女を描いてもらった絵。
それが「エスキース」

2つ目の話しは、その絵の額縁を作る。
額縁職人の情熱の話し。

3話は、その絵が飾ってある喫茶店で
対談する成功した弟子と師匠の話し
僕は、この話しが好きだ。

ネタバレあり
下。注意。

そして、4番目の話しは、50過ぎの心の病気の女と
元彼と猫の話し
かなり陰気な話しだ。
この女性が「エスキース」のモデルの女性の30年後
元彼が、あの彼であるとラストで・・・・。


最初の話しが切なくて
読む価値ありの秀作です。
最後は、めっちゃ強引。
嫌悪感すら感じた。


2021 12 9



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?