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感想 月の立つ林で 青山美智子 タケトリ・オキナという人物が配信するポッドキャストが連結軸となる。5つの物語。



読後感の良い短編集でした。

「ツキない話」とうタケトリ・オキナという人物が配信する月の話しを毎日するポッドキャストが連結軸となる。
5つの物語。
まさか、タケトリ・オキナがあの人だとは。
これはちょっと驚きでした。

ウミガメという短編が良くて
彼女は母親に嫌われていてネグレクトに近い状態の女子高生
バイトし自立しようとバイクを買いウーバーに登録し働く
そこで劇団の主宰をしていた父を持つ同級生と出会い劇団のバイトをすることに
バイク事故の後、彼女はパニックになり友達に電話し劇団の人に助けに来てもらう
入院する。
すると、母親が慌ててやってきたのでした。

この劇団の息子がタケトリ・オキナ。
このポストキャストが彼女に勇気を与え
彼が人との関係の仲介となり
最後は、母の本心まで引き寄せる。

少女の不安と葛藤が文章の間から溢れてて
すごく感情移入できた。

レゴリス というお笑い芸人にこだわる男の話しもいい
彼もタケトリ・オキナに励まされる。
夢を挫折しかけるが、頑張ると決める。
売れたいとか、そういうことばかりだったのに
舞台の目の前の客の笑顔に目を向けることができたというのが彼の進化だ。

彼はバイトで宅配の配達もしてて
次の お天道様 という作品でも配達員として出てきて

2つ届いた宅急便、ひとつは雨で濡れていたが、もうひとつは、ほぼ同じ時間に届いたにも関わらず濡れていなかった。いつもの配達担当本田さん、あなたの努力は荷物を受け取る方に伝わっていますよと伝えたい。


この本田というのが彼だ。
顧客のことを考える人に進化していたのである。

最初の 誰かの朔 の元看護士が猫を預かる話しもいい
無職でぶらぶらしてた彼女の背中を押したのもタケトリ・オキナだ。
それと猫の飼い主。
看護師は挫折したが、他にも人を助けることはできると考えるのです。

最終話の 針金の光 で主人公が目にトラブルを起こした時に冷静に対処法を教えたオペレーターは彼女だった。
彼女もまた、成長していたのだ。

最終話の 針金の光 で主人公が出会ったアーティストのおばさんがタケトリ・オキナの母だ。
ここが繋がる瞬間もいい。

月から見える地球はさぞかし美しい。タケトリ・オキナの言うように月に生物がいたら、あの青い星はどんな素晴らしい世界なんだとあこがれるに違いない。でも、実際には、この地球はどこもかしこも汚れて破壊されている。意味のない戦いはやまず、わけのわからない病がはびこって、いつも誰かが傷ついて泣いている。遠いから知らないから綺麗なことしか想像しないで済むのだ。

この言葉が印象に残った。
とくにここ。

遠いから知らないから綺麗なことしか想像しないで済むのだ。

何でもそうなんだが、他人のことはよく見える。

一人の時間を持つことと孤独は別のことよ


主人公の憧れるアーティストの言葉だ。
この人は、タケトリ・オキナの母で、彼とは子供の頃に別れている。
主人公の女性は針金細工のアーティストで、仕事に追われてて
夫も義母も鬱陶しい
一人になりたいという願望があるのだが、そんな彼女にタケトリ・オキナの母は自分の体験を通してアドバイスしているのだ。

この後、目にトラブルが生じて
それを本気で義母が心配しという展開になる
うるさい、うざいと思っていた存在が、すごく自分を心配しているのに気づく

これは五人全員の成長の物語だ。
だから心地よい。




2023 10 4



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