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書評 本のエンドロール 安藤祐介  舞台は印刷所、紙面から彼らの迸る本作りの情熱が滲み出していた。

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本づくりをモチーフにした作品は多い
舟を編む とか名作も多いです。
たいていは小説家や出版社の編集が主人公なのですが
本作の主人公は裏方の印刷所の人たちです。

本を作ると言っても色々あり
文字おこしから、イラスト、デザイン。
印刷の色を作り出すのは職人の技だったりする。
製本になるまでの過程には、色んな人が携わっていて
それらの人が日々、頑張っているから本はできる。

出版不況、本の電子化が進む中
印刷業は斜陽産業である。
ここの会社でも、老朽化した印刷機械を引退させるのだが
その補充はない

作家や編集はより良い本を作ろうと思っている
印刷所は、彼らの変更や遅延にふりまわされて苦労する
突貫工事みたいに無理から仕事が入ったり
誤植があっても、そのままにという作家や出版社の指示がある場合もあり
納得のいかない仕事もしなくてはならなくなる

印刷会社は助産師である・・・

彼らの中に、本を作っているというプライドを感じます。

ジロさんが調合した特殊インキを、野末が印刷機で紙に再現する。ただインキを紙に刷るだけでは要求どおりの色は出せない。インキの粘度、速乾性、紙の表面の性質などにより、発色の具合は大きく変わるからだ。
光度が弱い。緑が強すぎる。ベタの質感が悪い。
奥平(編集者)からの感覚的なダメ出しが延々と続く。

編集者や著者の感覚的なダメ出しに納得いく形で答えるのが印刷の仕事だ。
完璧と思えたものに対して、彼らは無責任な口出しをしてくる。

夢は、目の前の仕事を毎日、手違いなく終わらせることです

これは営業の先輩の言葉だが実行するのが難しい。

こんな素晴らしい名言も飛び出してくる。

理想や矜持があってこそ、目の前の仕事に向かう熱量も高くなる

ただ、仕事をこなしているのではない。
俺たちは、本を造っているんだ。
そういう意識が彼らの仕事から感じられます。

しかし、全自動で印刷から製本までしてしまう機械や
本が売れないという現実は
これから、彼らの仕事にも何らかの変動をくわえるのかもしれない。

そんなことを考えてしまいます。

2021 5/20



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