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感想 香君 上下 上橋 菜穂子 バッタが稲を襲撃、天災との葛藤が描かれたファンタジーでした。

とても面白かった。
一気読みでした・

上橋さんの小説は、何となく もののけ姫 に似ている印象を持つ。
環境とか、政治への意識が見え隠れするのだ。

表題の香君は、香りによって色んなことを予知する人であり、この国では神格化していて実際的な力がない象徴的な立場なのである。
これは天皇の地位にリンクしている。

もし、本当に政治の表舞台に立つとしたら・・・、為政者は恐れ、物語のように不都合な存在として毒殺しようとするかもしれない。

神格化=飾り でなくてはならないのだ。

神であると祭り上げることで、すべての責任を負わされる。
バッタが来襲するのは香君様の力が弱いからだと。
人々は、面倒なことを香君に押し付け思考停止でいられる。

香君は神ではない。人間なんだ。
そう、オリエもアイシャも伝えたかったのだ。


その昔、この貧しい国にオアレ稲という品種の稲が香君とともに他所の世界からやってきた。以来、この国は豊かになった。
しかし、害虫の被害が出るようになり、さらに、品種改良したら、大量のバッタが襲ってくるようになったのだ。

本書の要諦は、このバッタとの格闘。つまり、自然との格闘だ。

あとがきに、植物は香りを媒介し意思疎通している考えから、この物語は発生したとあった。
バッタすらも、植物の香りに反応していたのだ。

主人公のアイシャは、香君が持つとされている『香りで万象を知る力』を持っていた。
香君であるオリエと彼女は急接近する。

『誰にもわからぬ世界にいるよう振る舞うオリエと、本当に、誰にもわからぬ世界にいるアイシャ。』



香君でありながら、『香りで万象を知る力』の薄いオリエと、だれにも理解されない能力を持つアイシャ。

「香りがうるさい」という感覚。

 木が虫に食われて発している香りは「痛い、痛い、虫に食われている!」と言っているように感じられるという描写がある。香りを通して意思疎通している植物と対話ができる能力と言える。

私たちは全知全能ではない。虫のふるまい、オワレ稲のふるまいのすべてを知っているわけではない。初代の香君が定めた規定にはそれなりの理由があるはずだ。何故、そう定めたのかがわからないいじょう改変は危険だ。

とマシューの父は言っていたが、収穫量を増やしたい理由で少しずつ改変され
それで害虫が発生したのでは・・・・

つまり欲が原因なのだ。

バッタの被害が拡大する中、アリキ師は言った

自然の摂理は確かに無常だけれども、でも、けっこう公平なものですよ

勝ちっぱなしの生き物は、たぶん、いないのではないかしら


破滅的に思える災いも永遠には続かないのだと

最後に、一番印象に残った言葉を紹介し終わりにしよう。
天災についてだ。

覚えておられますか、湯桶の下にいた小さな虫のことを、桶に湯をくもうとした時、ちらっと虫がいるのは見えたが動作が止められなくて、そのまま湯をくみながしてしまった。虫にとっては何が起きたのかもわからぬ、一瞬の死だったのだろう。

人はたいてい、無自覚のまま殺されてしまう。
それが天災だ。
バッタの被害もそうだった。
気がつくとやられてしまっていた。

われわれにできることは、対処法しかないというのが悲しい。





2023 7 7



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