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書評 臆病な都市  砂川文次   人は信じたい事実しか信じない。ミスリードされた真実は、人々の権利を侵害していく。

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鳥を媒介とする病「鳧/けり」
これは新型ウイルスである。
まるでコロナのようだがニセ病だ。

公務員である主人公は、これは存在しないと思っていた。
研究者もそう言う。
延々と役所の中の対応の記述が・・・続く。

ある市長が国民の民意にそって
自分の人気とりのため・・・なのか
条例を制定し、そのまま国も巻き込まれていく

いつだってそうじゃないですか。調査中た゛とか確認中だとか、そうでなければただちに重大な影響を及ぼすおそれはないと思われるなんてあいまいなことを言って、結局後手後手になるんだ。直接住民を抱えているのは我々自治体だということをしっかり理解してほしいもんですよ。


この地方公務員の発言は、大阪の知事のようでもある。
国はいつも曖昧に逃げ道を作りつつごまかす
このシステム、組織の問題的を逆手に取るのが、この作品である。

何度も言う。「鳧/けり」は確認されていない、臆病な市民たちの幻想である。
コロナウイルスとは違う。ニセ病である。
しかし、官僚たちの対応を見ていると、何かをごまかしているかのようなのだ。

市長は話の節々に安全や安心ということを暗に示していたが・・・、彼の言う言葉は全て自身に有意義な道具の品評会に過ぎない。不安も危険も安心も、すべて彼を支える支柱なのだ。


この流行病を政治利用しているということなのだ。
それは今もリアルタイムで、大阪や東京の知事が行っていることなので
「なるほど・・・」と思う。

こんなウイルスは存在しない。
だが、民意が、最大多数が「ある」とそう思い込んでいる。
だから、国も従うしかない。便乗するしかない。
「ある」という前提は崩せない。崩せなくなってしまった。

感染拡大を阻止という名目で、バッチを作ったり
そのバッチをしていたら店の飲食が半額になったりする。
国民の人権を制限し、国の統治がしやすいようにしたり
箱ものの施設を堂々と建設したりしたのである。


大きいことを小さくみせ、小さなことには見得を切る。


これが官僚のやり口だ。

彼は、このくだらないワッペンを作るのに、どれだけの金が業者に流れ込むのかを懸念する。
まるで、今、リアルに発生している。
GOTO何とかやABEのMASKと同じ問題なのである。
誰がどれだけ、このどさくさに紛れて献金を貰ったのか、はっきりさせて欲しいのである。


感染予防をするために人権を侵害する法を作成する。

法文の危険性を叫ぶ声は、けりの不安という大合唱によってあっけなく潰された。


上司はこう言う

ああ、ないはないでいいんだ。私もないと思っている。・・・ただの道具だ。けりだってそうだ。ただの道具なんだよ。


これが役人の本音だ。
これが怖い。こんな奴らに国の政策を任せていることにゾッとする。

自分たちの利益のためなら、何でもするのである。

彼自身もワッペンを付けていないというだけで犯罪者扱いされる。
もはや、病は検査で決まるのではない。
それっぽい人を地域の人たちが密告するのだった。
ゲシュタボか!
国民みんながゲシュタボごっこかい。

こんな病は存在しないと発言した研究者は、発病したとして捕縛された。
真実が真実として通らない。

それが正しいとか間違っているは、もはや関係がない。
仕組みやら最大公約数やらには逆らうことはできない。

この物語の政府や国民は、私たちと似ている。
たぶん、人間の本質はここにあるのだ。
だから、とても危うい。
気がつかない間にひどいことになっている。
先の戦争みたいにだ。
そういう危険性を、この世界が孕んでいることは
コロナの世界を冷静に観察すればわかるのである。
感染者がどう周囲に見られて誹謗中傷されたか?。
感染者を出した病院に勤務しているというだけで
どれだけ、その人の家族が迫害され陰口をたたかれたか!

危機は時として、人間の本質をあぶり出すリトマス試験紙になると
私の大学の頃の先輩が言っていた。
この小説であぶり出された人間の泥弱さ、組織の曖昧さは
とても怖い。

コロナの前に、この作品は書かれたらしい。
とてもタイムリーな作品だと思う。

2020 8/19




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