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感想 夜が明ける  西加奈子 面白かったかと聞かれたら、たぶん「不快だった」と答えると思う。

本屋大賞ノミネート作品ということで読みました。
正直、読後感は最悪です。
いきなり、暗闇で殴られてゲロって、それが喉に詰まって窒息しかけたようなさいあくな気分。
それに最後のところ、特定の政党というか政治家を非難みたいなところも、何か好きになれん。


モチーフは「貧困」です。
少し前に、格差の問題や、サービス残業、過度の超過勤務、職場内のモラハラ、セクハラ。
そういうのが問題になった時期がありました。
もちろん、コロナの前のことです。
そういうのが言いたいことだと思います。

高校の時、主人公は無名俳優のアキ・マキライネンに似ている大柄の男と出会い友達になる。
この物語は二人の大河小説です。
二人は貧困道にまっしぐらです。
貧困の代表というと売れない芸人や役者。
アキは劇団員になる。
そして、主人公はテレビ業界。ADです。
こっちは、超過勤務にパワハラ、モラハラの温床みたいな職場。

ここから二人の壮絶な貧乏世界がはじまりまる。
読んでて息苦しくなった。

ADをしている主人公
この仕事はハードワークだ、離職率がやたらと高い。
社長は「お前の代わりなんていくらでもいる」と思っている。

金がないことの意味を主人公はこう語っている。
これは興味深い。

金がない人間に選択肢はない。他の人間と同じように好きなことを選び、やりたくないことを避けられる余裕なんてない。


金がないことで、チャンスが潰される。
夢にチャレンジする余裕もない。
だから、貧困が固定するのです。

主人公は、林というディレクターにいじめられ、タレントに都合の良いように呼び出される。
ストレスからメンタルが崩壊してしまう。会社もいけなくなり解雇になる。

何かを破壊したくてたまらない。カッターを探す。もう俺の腕は傷だらけだ。こんな腕で仕事が見つかるはずもない。生活費はどうする? 。奨学金の返済は?。頭が締め付けられて、吐きそうになって、それでもスマートフォンをいじる・・・


ディレクターの林が有名タレントと結婚した。
彼は嫉妬する。林の悪口をネットで調べる。

何もやる気が起こらなかった彼だが、何故か林の悪口を読む時だけは生き生きとする。
すごく不健康なんだが、どうもそれが人間の本質のようだ。
ゾッとするシーンだが、その部分がやたらと印象に残っている。


このタイトルの「夜が明ける」だが、これはアキ・マキライネンが主演した男たちの朝(邦題)のオリジナルの映画タイトルだ。

主人公は、アキの死でそのことを知る。

メンタルが崩壊しクズ生活をおくっていた主人公を森という後輩が訪ねてくる。
これはアキの遺品を届けにくるのだが、この時、彼女は言うんだ。

「助けを求めろ」って。
助けを求めたっていいんだって言うのです。
その言葉が彼を救った。

そこで、この物語のタイトルにかかってくる。
「夜が明ける」
これはアキ・マキライネンが主演した映画のオリジナルのタイトルでもある。

そして、それは作者のメッセージのようにも思える。
「明けない夜はない」は、「悪い状況が永遠に続くことはなく、いつかは必ず良いことがある」という意味です。
これはマクベスの名言です。

どんな不幸な状況だって、いつかは好転するものだよということです。
そういう思いが込められているように思います。この作品には。これが西さんの言いたいことなのかな。

辛い時は「助けてくれ」と叫べばいい。
周囲の人は黙って助けてあげればいい
負けるなと中島さんも言っています。

* 中島さんは主人公を何度も助けるおっさんです。


2022 3 27



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