書評 野火 大岡 昇平 戦争小説の代表的なものです。すごかった。追いつめられた人間は「猿」と称して「人肉」まで食べる。それをどう受け止めるべきか!。
映画「野火」の人肉を食うシーン。
野火は、最近、塚本信也監督が映画化しています。
この映画もリアルで怖かった。
監督自身が主役なところもいい。
原作は大岡昇平さんの「野火」です。
戦争文学です。
レイテ島の攻防を描いた作品で、主人公は病を抱えている。
野戦病院を退院させられて部隊に戻るのだが、芋を6本渡されて
上官から
・・・病院に帰れ・・・、どうでも入れてくんなかったら、死ぬんだよ。手りゅう弾は無駄に受領しているんじゃねぇぞ。それが今じゃお前のたった1つの御奉公だ
つまり戦力外。死ねと言われる。
この場面がすごく印象に残った。病院で死ねって、どういうことなのか?。
戻った病院も受け入れてくれない。だから、仲間と建物の外にいるしかない。
爆撃を受けてジャングルに放り出される。
もう、ひどいのなんのって・・・。
本書は、彼の逃亡記録である。
敗戦濃厚な日本部隊は、集結地に向かって個々で退却をしていた。
途中、芋畑を山中で発見し、そこで隠れ住んでいたが
遠くに見える教会。街かな。そこに下りて行ってしまう。
その町で彼は無数の日本兵の死体を見つける。
この描写が怖い。
或る者は他の者の脚に頭を載せ、或る者はその肩を抱いていた。伏した或る者の臀部の服は破れ、骨が現れていた。私はこの無人の村に、犬と鳥のみが多い理由を知った。
人と遭遇するが抵抗されて現地人の女性を殺してしまう。アクシデントと言えばそうなのだが、彼は罪悪感を感じる。
その後、米兵からの容赦のない攻撃を受けて仲間を失った。
食料のないジャングルをさ迷うしかない。
屍体はピンと張った着衣のほか、何も持っていなかった。靴もはぎとられたとみえ、裸わな足が、白鵬の天女のようにむくんで、水にさらされていた
蝿がたかった死体、蛆がわいた死体・・・
たくさんの死を目撃す
戦友の安田のおっさんと永松に出合う
安田は学生時代に子供を女に孕ませて、兄の子として、その子は育てられ
今、どこかの戦場にいる。
永松は、女中の子として育ち養子になっていた。
母親に拒絶された人だった。年は安田の子と同じくらいだ。
この二人は親子のようにチームを組んで当初から煙草と食料を交換し食いつないでいた
だが・・・、食料を交換する相手が、もういない。
「猿の肉だ、食え」と言われて、私はその肉の干物を食う。
だが、ある時、それが人間の肉だとわかる。
戦友たちを撃ち殺して、その肉を食って
生命を彼らは長らえていたわけである。
私がそれを見て、何か衝撃を受けたと書けば誇張になる。人間はどんな異常の状態でも、受け容れることができるものである。
人間は追いつめられると何でもしてしまう。
殺人すらもだ。
そして、殺した仲間の肉を食う。
生命を生きながらえる。
安田と永松を特別な人間と思ってはいけない。
これを「戦争」の悲惨さととらえるのか。
それとも「人間」の中にある本質ととらえるのか。
その場に自分がなった時、彼らと同じ体験をしないと言えるのか
たぶん、どうするかわからないと思う。
本書は、そういう戦争の悲惨を疑似体験できる作品なのです。
吐き気がするほど、むかつくが素晴らしい作品です。
2020 8/15
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