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書評 キノの旅ⅩⅡ 時雨沢恵一 今回も安定した面白さでした。少しブラックな短編楽しいです。

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 普通、長く続くとマンネリ化していくのですが、それなりのクオリティーを保っているのはすごいと思う。毒の内在する物語は刺激的です。
 キノとしゃべるバイクが旅で訪ねる不思議な国での物語です。
 短編なので軽く読めます。今回は16話ありました。全巻買ったのですが、積み上げ状態になってました。ときどき読みたくなるお気に入りです。これは12巻です。
 今回、気になったのは・・・

 「正義の国」・・・元は熱帯みたいに熱い国だったので制服が半袖半ズボン。キノたちの滞在した時は冬服が必要なくらい寒かった。なのに、生き方を変えません。つまり、モチーフは時代の変化に対応できない人たちです。最後は悲惨なことになります。こだわりやプライドは大切だが、そればかりでは生きてはいけないという話しでした。

 「日時計の国」・・・大きな日時計が国の真ん中にあります。貧乏な国。何の特徴もない、ただ貧しい国。その象徴が日時計かと思いきや、それは超巨大大砲だった。その威力は世界征服できるほどの威力。半世紀ほど前に設計図を手に入れて一発逆転を狙って作っていたのですが、完成した後、試し撃ちして・・・。その弾丸は地球を一周回って、その国を滅亡させるというオチ。設計図を作った科学者たちが、悪用する奴らが出てくるのを恐れて、そういう仕様設計にしたのでした。
 背景に核があるように思いました。核ミサイルで滅亡するとか、そういうことへの警鐘の意味もあるのかと・・・。大きな取り扱いに困るような武器を手にしてもろくなことはないということです。

 「徳を積む国」・・・これも良かったです。良いことをするとポイントがもらえる国。だから、みんな良いことをしていて治安がいい。理想的と思っていたら、寄付したらポイントが・・・とか、逆に悪いことしたらポイントが消えるとか出てくる。服役しなくてもいい、ポイントで精算できる。これおかしい。大きなポイントがあれば・・・何でも可能。そして、ある偉人の爺さんと会う。彼は寿命が近い。人を1人殺してもいいほどのポイントを持っている。彼は人を殺したいがために良いことをしていたという。そういう話し。
 人間の行動の意味に称賛や報酬が原動力になることは、とても悲しくて虚しい。だって、褒められたいから良いことするなんて、それは良いことじゃないと思う、それはただの自己顕示欲の充足ですよ。僕が学生の頃、ボランティアをしたら就活に有利と言われて、やりたくもないボランティアをしていた人がたくさんいました。何か違うと思う。
 人を殺しても罪に問われないって、いくら、その数倍の良いことをしてもおかしいと思う。良い行動に見返りを求めるなんて、その時点で良い行動じゃなくなっている。

2021年   5月 23日




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