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花の名前の一つでもあげることできたらいいのにな

半年以上ぶりに、好きだった人に会った。4月から違う土地に行ってしまうから、ランチでもしようっていうお誘いだった。予定がなかなか合わなくて、2.3回リスケして、仕事のお昼休みに抜け出してくるくせに、飲酒可だというので、フレンチ居酒屋に行った。

お変わりなく。なんて当たり障りない言葉から始まって、会ってなかった期間なんてなかったみたいに、最近見た映画、最近作った料理、行く予定のライブ、職場の人の話、私の転職事情なんかを話した。彼氏の話は避けていたのに、彼氏さんとは順調ですか、と言われ、まあそれなりに仲良く、波風立たず穏やかに生活していますと答える。ラブラブちゅっちゅですよとでも言えば良かったのに、すましてしまった。クソ。出会いだとか結婚の予定だとかを聞かれ、そちらはお相手はいらっしゃるんですか?と半分煽りつつ聞くと、ふつ〜うに、まあ、います。と答えられた。まさかまさか彼女ができてるだなんて思わないから、どこの誰!?と勢い余って聞いてしまった。全然職種の異なる、インスタで繋がった人で、好きなものや雰囲気が似ている人、らしい。いつから?と聞くと、半年くらい前と言われ、私と会わなくなってすぐじゃん。と思った。それなら私で良かったじゃん。っていいかけたけど、私は彼を諦めたことを後悔してないし、今の彼氏と出会えて良かったって本当に思ってるから、それは言ってはいけないって思った。私があのまま、諦めずに側にいたら、付き合えてたのは私だったのかな。それとも、諦めずに側にいても、その人と出会ってしまって、もう会わないって言われてたのは私だったのかな。それともそれとも、その人と出会ってしまっても、私がいるからいいやって、私との関係に甘えられてたのかな。それともそれともそれとも、私に彼氏ができて関係を切ったことで、彼も彼女を作る気になったのかな。もう好きな気持ちだってないし、そもそも付き合ってもうまくいかない想像しかできなかったのに、そんなことを考えて、いたく落ち込んだ。映画や音楽、美術館が好きなんて趣味が合う人はいそうでいなくて、そう考えると僕らほんまに合っててん。なんて言うから、なおさら、じゃあどうして付き合えなかったの、と思ってしまってこたえに困った。

嫌なところはないですか、と聞くと、普通にあるで、この前も言い争ったもん。という。彼女は好きを表現してほしいタイプらしくて、何で好きって言ってくれへんの?と言われ、六年付き合った元カノに対してでさえ数えるほどしか好きを伝えてこなかった彼は、その温度差というか、不慣れな表現に戸惑ってるらしい。普通どのくらい伝えるもんなん?と聞かれ、何で私こいつに恋のアドバイスしてんだ?と思いながら、どうせ好きって言われた時にうんとかありがとうとか言ってるんでしょ、そりゃなんで返してくれないのって思うし、返してくれても次は何で私ばっかり言ってるの?何でそっちから言ってくれないの?ってなるよって返したら、そのとおり。と言う感じだった。うんとかありがとうで返すの、私のときとおんなじじゃん。って思ったけど、それも言わなかった。だけど私は、何で返してくれないのとか、好きって言ってよとか、そんなことさえ言う勇気がなかったから、何の疑いもなく好かれてると思っているからこその、彼女からの要望なんだろうなと思った。だけど、長く付き合った元カノにでさえ言わなかったのなら、私のことも、言わないだけで少しは好いてくれていたりしたのかもしれない。って都合よく考えたりもした。元カノと真逆のタイプだね。でも案外そういう人の方がいいんじゃないですか、元カノは言いたいこと、我慢してることたくさんあっただろうから、それを溜められるよりは、お互い言いたいこと言って、譲れる部分は譲り合って、それでダメだったとしても、今まで付き合ったことのないタイプの人と付き合ったことはいい経験になるし、新しい自分の開拓になるんじゃないですか、って言った。元カノと真逆のタイプ。好き好き大好き!大好きって言ってよ!ってタイプ。本来なら私もそのタイプだったのに、嫌われたくなくて、重いと、煩わしいと思われたくなくて、私がぶつけることのできなかったもの。そのハードルを、つい半年前出会ったばかりの人に超えられてしまったことに、なんだか喪失感を覚えた。話していると他にも不満は出てきて、一人暮らしを経験したことのない子だし、料理も全然しないし、だから僕が料理して向こうがお風呂掃除してるし。お酒が飲めないのが僕にとっては結構なネックで、2人でワイン一本開けるのはマストやのに、やっとカクテル三杯まで飲めるようになったところ。なんて、愚痴にも惚気にも聞こえるそれは、あとからじわじわじわじわと私の心にダメージを残した。お風呂掃除なんか私はしなかったなあ、まあ私があの家でお風呂に入ることなんかほとんどなかったし。お酒だって私ならいくらでも付き合うし、2人でボトル開けたことだってあったのに。一人暮らし経験だって私なら長いのになあ。とか考えても今更どうしようもないんだけど。じゃあ四月から一年遠距離で、帰ってきたら同棲じゃん。と言うと、それ言われてるねんなー、まじかと思ってるけど。とか言うから、ああほんとになんか、なんだかんだ結婚しちゃいそうじゃん。って思った。私だって、彼氏と同棲の話も結婚の話もしてるのにね。私たちはきっと、いろんなものやタイミングが、噛み合わなかったんだね。
一旦話が逸れたのに、今年の森道の話になり、デイキャンプするって言うから、テント入れてよって言ったら彼女もおるけどええで、と。彼女といくんだ、うぜ〜!来て良くても絶対行かねえよ、ってか彼女ともキャンプするってことは、クリスマスキャンプしてたのも彼女とだったのかな、とか、想像力と記憶力が豊かなばっかりにいろいろ考えて、自分が泥沼にいた時を思い出してまた少し病んだ。

1時間半くらいの休憩時間のはずが、3時間が経っていて、彼は仕事に戻らないといけないのに戻らなくて、川沿いを散歩したいけど流石に遠いから、最後に本屋さん見よう。と言われた。私の帽子を、手に渡さずに直接被らせてくるところだとか、ちょこちょこ2人だけの思い出話をしてくるところだとか、名残惜しそうにしてくるところだとか、会ってない間の、私のインスタで知り得た私の出来事に話題を持っていくところとか。ああ変わらないなあと思いながら、一列一列丁寧に本をみていると、お互い買う本選び合おうや。と言う。一年前のこの人の誕生日、本をあげたかったけど何をあげればいいのかわからなくて、いい本が見つかり次第あげるねって言った私は、それを思い出して思わず泣きそうになった。意識してるのかしてないのか、どっちにしても、本を選び合うという行為に、愛情の余韻を感じられずにはいられなかった。お互い少し照れたのか、変な本を選び合ってしまったけど、もしかするともう私たちは2度と会わないのかもしれないけど、いい区切りだったなと思える日だった。最後に、結婚することが決まったら、結婚の決め手を連絡しようね、なんて言い合って、また遊ぼうねと言ってお別れした。完全にさよならできないのは、私と彼の弱さで、仲の良さで、愛情だということにしよう。うまくいかなかったけど、たくさんのものをもらえたし、その先に今の出会いや人生があって、私は今幸せだからいいんだ。いつか心からおめでとうを言える日が来るといいな。

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