故はなく
私が失恋した日に母は自殺した。と言う事で、私の失恋はどこかへ飛んでいったと思う。あの時の事はあまり思い出せない。全てが真っ暗になった、って言うのはとても正しい表現で、感覚が断絶していて、何も帯びない。そして思い出してもその暗闇が広がり、今現在をも襲って来そうになる。だから、思い出す事を自分に禁じている。そうすれば、日常に救われるのだ。それを重ねて、幾日、幾月、幾年を経れば何かが変わると信じている。あの闇が消えるかもしれないって。そう信じるようになったのは、幼馴染の健太のおかげだ。健太とは彼が小学三年の時、近所に引っ越して来て以来の友人で私があの時、失恋した相手でもある。その時、私を支えてくれて、何とか大学4年にまで、卒業にまで漕ぎ着けたのである。
毎日を通り過ぎる事が大変だった。朝、目覚めた時の冬のような真っ暗な凍てついた部屋…ではないのにいつもそう感じる。動き出すのがとても億劫で、そのまま消えたくなる。でも、それではいけないと思って、動き出す。何も考えずに。考えたら終わりなのだ。だから、身体を動かす。意味なんてどうでも良い。布団から這い出て、部屋を出て、冷蔵庫を開けて置いてあるコップにミネラルウォーターを注ぎ、飲み干す。ここまでのお決まりの行動にすら苦痛を感じる。しかし、思考はしない。始めたら終わりだからだ。そう気付くまでに半年かかった。それまでは途中で考えたりして、座り込み、蹲り、一日動けない事もあった。