家庭教師

先日川端団栗でカワヅザクラを撮っていたとき川端通りの向い側を見てふと思い出した学生時代の家庭教師のアルバイトのこと

家庭教師のアルバイトをする人が周りに多くいて、時間的にも融通が利くし楽しそうなので私もやろうと思い学校の斡旋掲示板に行き、学校の近くで登録するとひと駅先の本部へちょこちょこいかないといけないとなると授業ない日とか面倒くさいかなという理由だけで家に近い小さい会社で登録し、家庭教師のアルバイトを始めた

自転車で20分ほどかけて週一回教えることになったその相手は高校受験を控えた中学3年生の女の子で、その時すでに7月だったが全く勉強する気配がなく、勉強机にはテスト前でも教科書は持って帰ってきてないけれど毎日見るテレビ番組の題名が全てひらがなで書かれたメモが貼ってあり、階下からは２階の勉強中の部屋まで聞こえる音でテレビがかかっていてご両親の笑い声も耳に届いた

どうしてここに呼ばれたのか、こんなに嫌がっているのに全教科教えないといけないのか理解しがたかったが、学校のテストで０点をとり塾の入塾テストの結果特別クラス（高額という意味）、大手家庭教師も特別な特訓料金が必要とかで面倒見の良いのが売りの小さい会社に登録し、見事私とマッチングしたのだった

私も勉強はしなかったけど、本当に勉強してない人に出会ったのでこれ以降私は勉強してなかったとは言わなくなったし、親が張り付いて勉強を教える必要はないけど勉強する環境を整えるのを手助けする事は塾に通わせるとか家庭教師を雇うとかより先に家族にはやって欲しい事だなと思った

彼女は一桁をこえる足し算は出来ないし、英語もアルファベットが読めないというし、漢字も読めないから国語でなくても問題文が読めないものがあるのだという

この状態の彼女に対して学校の先生からは特に何も言われないというので中学校に疑問を持ったけど、私の使命は中学校の教育状態を問題視することではないのでとにかく参考書やら計算ドリルやら漢字ドリルやら買い漁り嫌がられようが何しようが徹底的にやってもらう日々を送っていた

教えるのがいちばん難しいと思ったのは国語で、よくある文章の中から7文字で題名を書き出せという問題で彼女は『、というわけで』という答えを見たとき絶句した

え。。。おちょくられている！？

地元では、ごくごく一部の面々では『川端のラブホかいっ』ってやんややんやきゃっきゃきゃっきゃといじられる、川端通りの団栗橋にあるラブホテルの名前だった

※ちゃんと調べたら『と、いうわけで』でした〜

結果、全然そういうことではなく目に入った７文字を書き出しただけの事ではあるが、句読点から始まる語句をわざわざ書き出すって理解不能だが、本当にこれが題名と思ったのだから仕方がないとか、だって文章から書き出せっていうから、みたいなことを彼女は面倒くさそうに口をとがらせて説明していたように思うが、確かに出題者が考える題名だからこの短い文章に何を思おうと自由ではあるが、目に飛びこんでくる『人間と動物の絆』とかそんな感じの７文字があるのに、と思いつつ真面目な私はでもそういう題名の本は絶対に存在しないとは言い切れないな、と頭の中に浮かんでくる雑念を払いのけ文章題で問われる場合の語句とは、とか説明に励んでいた

理由なんて無く、とにかく早く終わりたい、それだけの事で適当に書いたんだろう

約半年間強はあっという間に過ぎ、『先生、受かった！ありがとう〜』という電話一本で私の家庭教師生活は終わりを迎えた

色々あったが、国語の文章題のこの答えの他にもう一つ印象的なのが『なんのために勉強するん〜？』というまさかのステレオタイプな問いかけに、『友だちと遊びに行って割り勘するのに計算しなあかんかったり、好きな歌の英語の意味知ってたほうが良いし、何かなりたいもの見つかったとき勉強が必要になったりするかもしれへんやん？』とかえすと『ふ～ん、でも電卓とか電子辞書あるし、勉強せんでも叶う夢見つけるわ』とかえされた

このやり取りだけでも、勉強がやりたくなくて嫌いなだけで考える力がないわけではないんだなと思い、その時は学校の成績とか受験というものがあるので勉強しないとされる子とその家庭教師としての関わりしかなかったのでこういう形ではなく出会っていたらまた別の印象を残したかもしれない

いまだに勉強する意味なんてわからないし、おそらくあのときのからかうような軽やかな憎めない笑顔でそう答えたあの子は勉強してもしなくても大して困ることなく便利に使えるものをうまく使いこなし何事もなく生活しているのかもしれない

もう２０年以上たつのに、時々思い出してしまう家庭教師のアルバイト