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【10クラ】第11回 出会い ―情熱と貫禄―

10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
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第11回 出会い ―情熱と貫禄―

2021年5月14日配信

収録曲
♫マヌエル・デ・ファリャ:組曲『恋は魔術師』より《火祭りの踊り》

オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」

演奏&MC:深貝 理紗子(ピアニスト)


プログラムノート

なにかに出会うとき、必然であったかのように生まれるものがある。
もしすべての出会いが偶然でしかないとしたら、これまでの世の中、どれほどの奇跡があったことだろう。

たとえば文学も、作者に何かしらのショックが走り綴られたものが多くある。良くも悪くも、というか、大半の場合はネガティブな方向性に思える現実から作品は生まれている。
中原中也のパンチの効いた鋭い表現は、張り裂けんばかりの絶望と苦しみから来ている。中也といえば、フランス文化の好きな私などはユトリロを想う。
「白の時代」と呼ばれる独特のキャンバスには静かに刺さるものがある。ユトリロは精神的にも経済的にも生涯苦しんだ。俄然その周りの人たちも相当苦労しただろう。私たちはその魂の葛藤に、なぜかうっとりとさえしてしまうのだ。目を背けたい一方で、還りたくなるのだ。

シューマンもそうだ。
私はシューマンが好きだ。あの嘘のない激情と落ち込み、引きこもり感満載の夢想家、留めようのない歓喜とハイテンション(もはやハイ)、こんなに人間味豊かな作曲家がいるだろうか。
彼は何度恋に破れたか。
どれだけ身を切るような辛さを味わったか。
手の付けようがなくなるほど病んでしまった精神の半面、描かれる音楽はファンタジックで狂気。人間的に見れば「日常の逸脱」であったが、音楽的に見れば「平常の超越」と化してしまう皮肉。

モーツァルトの美しいクラリネットコンチェルト、ブラームスの味わい深い傑作クラリネットソナタなど、作者の身近に魅力的な音楽家がいた場合に書かれた作品もある。クラリネット五重奏もそうだ。この二人の近くに、よくぞいてくれたと思う。

さて、今回取り上げたファリャは、ラジオ内では「バレエ・リュス」そしてドビュッシーとの関係性を話しているが、ここではもうひとつの側面を記したい。
ファリャは自国スペインで、運命的な出会いをする。
パストーラ・インぺリオというフラメンコ界きっての女性ダンサーである。
インぺリオは堂々たる、そして貫禄溢れる舞でスペインの伝統を守り抜いたスーパースターであり、当時自身の立ち位置を見失っていたファリャへ作曲の依頼をし、「スペインの偉大な音楽家」を見出した人物である。

ファリャはインぺリオからの作曲依頼で喜びを得ると同時に、スペイン色を醸し出す作風に自信を持って邁進するようになった。ちょうど芸術の最先端地パリでの「スペイン・ブーム」とも重なり合い、ファリャは人気作曲家の仲間入りを果たした。

《恋は魔術師》も、インぺリオの舞を意識して描かれた。
この幻想的で艶やかで、夜の香りを濃厚に抽出した音楽を聴けば、インぺリオというダンサーがどれほど魅力的だったのかと憧憬の念を抱く。

悪魔祓いという祈りと、大地に迸るような火を使った厳しさに、スペインの熱さとシリアスさを感じる。同時に、私たちはもっと逞しくならなくてはいけないと思わせられる。

情熱と貫禄、堂々たる音の熱量にいつも鼓舞される。

クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/