【サロンから見る音楽史】 vol.9 時代を拓く美男美女

挫折をバネに、現代にまで大きな影響を及ぼすほどの音楽家が誕生しました。


間違いなくカリスマ

そして間違いなく

人を愛し、音楽を愛した音楽家だったのだろうと思います。


ブルジョワ市民が活躍し、新しい時代をいち早く行っていたパリはヨーロッパの芸術文化の中心地でもありました。

そこではピアニスト・カルクブレンナーとフンメルの一騎打ち状態。

ふたりとも既に名声があり、権力も持ち、楽壇を自由に支配することのできる存在でした。

つまり、繋がりのない音楽家たちが頭角を現すことは至難の業、ということです。


そんな中、息子の夢を叶えるべく奔走した父親のおかげで、宮廷デビューを果たした12歳の少年がいます。


フランツ・リスト。

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この時の宮廷夜会はベリー公爵夫人の主催で、外交官や貴族たち200人の集まった大きなものでした。


ベリー公爵夫人はシチリアの王女として生まれ、フランスのブルボン家へ嫁いできた、正真正銘の上級貴族です。


洗練されたイタリア貴族の流れを受け継いだ、内容の濃い夜会を開いていました。


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のちのち、息子の王位継承のために画策を練ったり、なかなかドロドロとしたことをやってしまった方ですが…

身に着けるものも上質なもので、ファッションにも大きく影響を与えたご婦人です。


そのような夜会で演奏をし、貴族たちの間で大評判になったリストには、次々と貴族社交界の音楽会が舞い込みました。


が!

その噂を聞きつけ、リストの演奏を聴いたカルクブレンナーは酷評します。


「すぐにぜんまいの切れるオルゴールのようだ」


リストの名前はこの言葉とともに知られるようになりました。


古今とも、人間はなんて権力者の言葉に弱いのでしょう…


そこからしばらくの間は、どうにか演奏の場として二流サロンに出入りし、相手を選ばず教える仕事があったら行く、というように、生活をするのが精一杯の時代を過ごします。

あのリストでもこのように下積み時代があったのですね。


リストが一念発起したきっかけは、伝説の鬼才・パガニーニの演奏です。1831年、リストは20歳。


「ピアノのパガニーニになる」と心を奮い立たせられたリストは、悪魔的とも評されていたパガニーニに対抗するように、自らキャッチコピーをつけて売り出しを始めます。

ここからがリストの快進撃。


“ 苦悩し、人生と愛を理解する美貌の天使 ”


す、すごいキャッチコピー😳


相当なナルシストだったのかなあ…とは思いますが、頼れる人のいない身で、こうして演奏家、マネージャー、プロデュース、営業部長、マスコミ、みたいなものを全てやってしまう意志力と行動力には、励まされる気もします。


待っていて何かが来る人は、ほんの一握りの天才の中でも、強運に恵まれた人だけ。

ましてや時の権力者に二流のレッテルを貼られてしまった身です。

本当に勇気があると思う。


リストはマネジメント力にも長けていました。それは今の音楽家たちも見習うべきところだと思います。

人との繋がりを大切にしてフットワークも軽く、社交的で、情報収集にも積極的でした。

良いものはどんどん取り入れていこう、

良いものは良いと広めよう、

そんな柔軟な考え方をも持っていたようです。


こうした地道な積み重ねに多くのマスコミが飛びついて、やがて連日新聞に載るようになります。

マスコミを味方につけたリストには、熱狂的な女性ファンが集まるようになりました。



ピアノは横向きにおいて美しい横顔を見せる。

楽譜は置かずにすべてを覚えて颯爽と演奏する。

手が見えないほどに派手な超絶技巧を織り込んで圧倒させる。

かと思うと心を鷲掴みにされてしまうような甘いメロディを聴かせる。

流行のオペラなどを取り入れてダイナミックに表現する。



などなど、新しいことを実験しては、女性たちを卒倒させてしまうようなことを次々と行いました。

ロックスターみたいな感じでしょうか。


当時は、オペラが作曲家としての大成を意味してましたし、流行のはじめはまずオペラでした。パリの一番人気と言えばベッリーニ。

だからリストはたくさんのオペラ曲のパラフレーズも作っていきます。仲間の音楽家に声をかけて、一緒に曲を作ったりもしました。

そのことはまた追って書きたいと思います。



さて、ほどなくして、「ピアニストを押しつぶすほどの花束が投げ込まれる」という前代未聞の美男子に、社交界の花が目を留めます。


こちらもまた花の中の花。

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美しさと教養を兼ね備え、多くの男性の憧れの的だったマリー・ダグー伯爵夫人という強力なパトロンを得て、リストの人生が大きく飛躍します。


サロン文化の中でもいちばん華やかな時代を切り拓いたふたりの周りには、錚々たるメンバーが集い、大きな功績を残しました。





クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/