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(音楽話)22: Laila Biali “Take Me to the Alley” (2020)

【慈愛】

Laila Biali “Take Me to the Alley” (2020)

まず、この曲は私の好きなジャズ・シンガーGregory Porterの曲だということをお伝えしておきます。アルバム「Take Me to the Alley」(2016)収録の同名曲で、彼の温かい声が静かに聴く者を包み込んでくれる、とても美しい曲です。

Gregory Porter “Take Me to the Alley” (1 mic, 1 take ver.) (2016)

それをカヴァーしたのが、今回のLaila Biali。1980年カナダ・バンクーバー生まれ。幼少期からピアノを弾き、音楽の道に進むにつれてジャズにハマり、学生時代はトリオを結成して演奏活動を行っていたようです。その後米国ニューヨークに移住しピアニスト/ヴォーカリストとして活動。Paula Cole、Sting、Chris Botti(米国で有名なトランペット奏者)、Suzanne Vegaなどと仕事をし、2007年にアルバム「from Sea to Sky」でソロデビュー。日本のレコ屋で特集が組まれていて私も当時買ったのですが、軽やかだけど深みのある歌声、ジャズだけではない音楽性が垣間見えて素晴らしく、よく聴いたものです。ちなみにM2 “Secret Heart”は至高…原曲はこれまた私のお気に入り、Ron Sexsmithです。
以降も着実にキャリアを積み続け、カナダ版グラミー賞「Juno Award」を複数回受賞、母国カナダで有名なジャズ・シンガーとなった彼女が、ライヴ・レコーディングで示した今回の”Take Me to the Alley”。Laila自身がピアノを弾きながら歌っています。彼女のピアノはとても優しいけど意思の強さを感じさせる音色。曲全体をしっかりとリードしながら、歌とのバランスを的確に取っています。そしてヴォーカリゼーションは自在に表・裏を行き来しながら、ジャズらしいフェイクや息の抜き方をみせてくれる、ソフトな包容力。バックはベース、ドラムス、キーボード/サックス。ベースって、弓を引くとなんでこうも心を震わせる音を、指で弾けばなんでこうも心の底に届く音を、鳴らすんでしょうね…ベースの音に身を委ねているだけで思わず泣いてしまいそう。ドラムスの優しさ、サックスの沁み方も素晴らしい。

この曲はGregoryの継母のことを歌ったんだそう。彼女はホームレスなどに食料や住居をよく提供していたらしく、「彼女は困った人を常に探して助けてあげていた」。現在は既に他界していますが、「この歌を歌うと今も彼女を感じるし、社会的なメッセージを込めて歌ってるつもりだよ。この歌はセクシーでもロマンティックでもないけど、素敵な曲だと僕自身思う」。歌の主が非常に大きな慈愛の心を持って、皆を癒したい、助けたいという想いを素直に伝えているこの曲は、本来の社会背景云々を抜きに考えても、とても沁みてきます。

「みんなに聞かせてあげる 私はあなたの友だちだって」
「私のところにおいで 私の庭で休んでいって きっと安らぎがやって来るから」

それを増幅させる、Lailaの歌唱力とサウンド。この映像を通して、あなたが少しでも温かい気持ちになれたら幸いです。

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