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第314回/かっこいいオーディオ~セミ・ヴィンテージとモダン・スタイリッシュ[鈴木 裕]

 1970年代のスピーカー。その外観のデザインを踏襲したものがここ何年かで発売されている。たとえばタンノイのLEGACYシリーズ。キャッチコピーとしては「1976年の美しいデザインはそのままに。最新の音響テクノロジーを注いだLEGACYシリーズ」というもの。ARDEN(アーデン)、CHEVIOT(チェビオット)、EATON(イートン)の3機種がラインナップしている。

タンノイのアーデン。38cmのウーファーの中心にツイーター。けっこう大きなスピーカーだ。

 あるいはJBLにも1970年代の“L100 Century”をモチーフに新しく開発した、L100 CLASSICやL82 CLASSIC、L52 CLASSICがあるし、なんとアンプにも60年代のプリメインアンプSA600をオマージュしたデザインのSA750が登場。中身はDAコンバーター入りで、LANケーブルでネットワーク環境に接続する機能も持っているプリメインアンプだ。エクステリア的にはたしかにSA600のイメージを踏襲している。というか、JBLにはそもそもブルーバッフルで木製エンクロージャーというスタジオモニターの流れが50年間くらいは定番で、いまでもスピーカー売り上げランキングを見ていると4312シリーズは常連だ。

JBLのクラシックシリーズのスピーカーとDAC入りのプリメインアンプ。
部屋の感じや家具なども揃えているいい雰囲気。

 こういったモデル、音質については個々に違うので言及しないが、デザインとして好評だし、特に20~30歳台の人が見てカッコイイと言うらしい。

 さて、そういったタンノイのLegacyシリーズやJBLのCLASSICシリーズをちょっとなつかしさの入ったセミ・ヴィンテージと呼ぶとすると、一方には新しい素材や技術を使った(ここでは仮にこう呼ぶが)モダン・スタイリッシュなオーディオもある。

 たとえばマジコのM6。バッフル面はアルミの削りだしで流面形というか、角ばったところがなく、本体はカーボンの部材を採用。インポーターの紹介を引用させてもらうと「最新の航空宇宙技術とマテリアルを活用した1/2インチカーボンファイバーサイドパネルのモノコックエンクロージャーです。F-35 戦闘機の外殻構造に類似するエンクロージャー」ということになる。ドライバーユニットの振動板も、たとえばツイーターはベリリウムにダイヤモンドコーティングしてあったり、ウーファーはナノカーボンが何層にもなっているといった最新の素材が投入されている。

マジコのM6。モダン・スタイリッシュという言葉を使ったが、オブジェとして既に美しい。

  YGアコースティックのHailey 2.2もモダンでスタイリッシュだ。正式には発表されていないが、このエンクロージャーの造形についてはポルシェデザインが関わっているらしい。たしかに面の微妙なラインが美しい。硬いアルミの無垢の部材から削りだしたもので、それはエンクロージャーだけでなく、たとえばウーファーの振動板もアルミの塊から削りだしている。頭に入ってきにくい情報なのでもう一回書くと、元のアルミの塊のおそらく9割以上を削りクズにしてしまうような、徹底した製作方法によってウーファーの振動板が造形されている。

 エストニアのスピーカーメーカー、エステロンのFORZAも未来的というか、宇宙的な形。ヴィヴィッドオーディオのGIYAシリーズもなんとも表現しにくいが内容、デザインともにモダン・スタイリッシュと言っていいだろう。内容を知っているからかもしれないが、デザインにオーラがあるし、音としてはいずれもそれぞれにハイファイ性能の高い、洗練された表現力を持っている。

YGアコースティクス Sonja2i 。硬いアルミから削りだしているエンクロージャー。
微妙にやわらかな面を持っている。

 さてこれらのセミ・ヴィンテージのスタイルとモダン・スタイリッシュ。自分はどちらも好きだ。音もいいと思うものがあるし、デザインとしても両方のそれぞれのスタイルにはけっこうソソラれる。どうも気が多くて我ながら呆れるが、好きとか嫌いといった感情は説明のつかないものなのでしょうがない。

 スピーカーの場合、そもそもその形とか仕上げとか、ドライバーユニットの付いている位置とか角度とか。もちろんエンクロージャーの素材や作り方が音の出方に関係してくるので、単純にスタイルだけの話ではないのだが。

 オーディオ専門誌以外にもオーディオが登場する雑誌、たとえば『SWITCH』(スイッチ・パブリッシング)とか、『pen』( cccメディアハウス)などに登場するオーディオシステムの写真を見ると、素朴にカッコイイなぁと感じてしまう。『ステレオ』誌(音楽之友社)でも何年かに一回、そうしたデザインの観点からオーディオを特集していたりもするのだが、いざ自分の部屋を見るとあまりにも雑然としていて生活感があり過ぎだ。そもそも『SWITCH』、『pen』のオーディオの写真には各種ケーブル類が写っていない場合が多いし、スピーカーの位置としても音のことはあまり考えていない置き方もしている。

 そんなことを考えつつ、あらためて自分のやり方を省みると、一応、オーディオの方は新しい系でハイファイを目指しているつもりだし、クルマの方は古い方を選択して1970年のMGに乗っている。土地が広くて、経済的にリッチだったらオーディオルームやガレージを複数持っていろいろやれるのだろうけど、自分のさまざまな条件だとアレもコレもは無理。「酸っぱいブドウの論理」的に言うと、もし複数のオーディオルームやガレージを持てたとしても、それらの複数のオーディオの音を詰めていったり、何台もあるクルマに乗ることはあんまり得意じゃないという自覚もある。性分というやつ。

筆者のマイカー(この言葉自体が死語になっているが)。1970年のMG社のMGB-GT。

 ここのところ、あらためて自分の欲しい音やオーディオは何だろうかと考えている。デザインも大事だがもちろん結局は音のことだ。音のことを考えているとデザイン的なところにも行き着くことになる。前回のこのコラムでは高音のことを書いているが、やっぱり低音のことも考えていて,これから低音をどうしたいのか。それにはどんな物(ブツ)が要るのか。そもそもどんな低音が欲しいのか。その低音を現実のものにするのにはどんなオーディオが相応しいのか。調べたり、考えたりしている。こういう時間が楽しいとも言えるが、煩悩というか業のようなものなのかもしれない。

(2021年12月31日更新)    第313回に戻る 

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鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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