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楽譜から見るピアノ楽曲の難易度

楽譜を一目見て、おおよその難易度が分かる人は、そもそもかなりの経験と読譜力がある人だ。よく音符の数が多いと難易度も高いのではないかと思われることがあるが、必ずしもそれは当てはまらない。音が多くても、指に沿った音形で、同じような動きを繰り返す場合、それほど苦労はない。

今回は、ピアノ曲の難易度を左右する要素を10個、大まかに列挙してみたいと思う。演奏会等に向け、今から新曲の練習を開始して間に合うかどうか、伴奏を頼まれて引き受けるべきかどうか等迷うとき、何かの参考になれば幸いである。

1、テンポ
言うまでもなく、同じ内容ならテンポが速い曲の方が難易度は高い。また、機械のようなテンポの正確さが要求される曲は、メトロノーム必須となる。どちらかと言うと、rubato で弾けるものの方が、多少誤魔化しが効く。ただし、極端にゆっくりな曲というのも、ピアノでは弾きにくい。

2、拍子
変拍子は弾きにくい。これは現代曲に慣れていない人の場合、上級者でも苦労することがある。変拍子とは、例えば4分の5など、一般的にあまり使われない5や7などの奇数の拍子、また、例えば4分の2と4分の3を繰り返すなど、様々な拍子が混ざり合ったような拍子を言う。普段から変拍子に接していない場合、こういった拍子は覚悟して取りかかる必要がある。一般的によく使われる、8分の3・6・9・12、4分の2・3・4、2分の2などは特に苦労はない。

3、調性
最も弾きにくいのは無調である。無調に近いほどやりにくく、調性がしっかりしているものほど弾きやすい。例えば小学校の音楽の時間に勉強するような曲(鑑賞以外)は、全て明確な調性があるので、誰が聴いても分かりやすい。反して、古典和声を一切排したような現代曲は、演奏しにくいのはもちろん、聴くにしても万人に理解されるというものではない。ドビュッシー辺りでも違和感を感じてしまう人は、なるべく古典和声で作られている曲を選ぶのが無難だ。

また、調号(#や♭)が多い調ほど弾きにくいと思っている人がいるが、必ずしもそうではない。むしろ、手の構造上、黒鍵が多い調の方がテクニック的に弾きやすく感じることが多々ある。人によっては、調号が多いと、譜読みの段階で時間がかかることがあるかもしれない。しかしあらゆる調に対し、頭の中が瞬時に切り替わるくらい慣れている場合、労力的にはほとんど関係がない。初級者で、どうしても調号の多いものは無理という場合は、難易度に関係する。

4、臨時記号
臨時記号は、楽譜をぱっと見ただけで多いか少ないか分かるので、難易度を見分けるのに役立つ要素だ。臨時記号が多いほど譜読みに時間がかかるのは事実なのだが、どんな音についているか注目してみると良い。ランダムにいろんな音についているようなら、それは音の配置が現代的であり、譜読みの難易度が高くなる確率が高い。同じ音(例えば短音階の第7音)ばかりについている場合、それほど難しいことはない。

5、音域
小学生くらいまでだと、身体の大きさがその曲の音域をカバー出来るか考慮する必要がある。大人の場合、曲全体の音域というより、和音の音域である。例えばオクターブまでしか届かない手の場合、10度が頻出する楽曲は大変だ。また体力がないと、オクターブの連打などはきつくなることがある。

6、運指
運指が付いていない楽譜は、最初に自分で指使いを考え、書き込む作業が要求されるので、時間がかかる。同じ曲で運指付きのものが入手可能ならば、そちらを購入すると、だいぶ楽に譜読み出来る。必ずしも全ての運指に従う必要はないが、大幅に労力が省けるからだ。

7、リズム
リズムが複雑なほど、譜読みも、テクニック的にも難しくなる。複雑なリズムとは次のようなものだ。シンコペーションが多い、符点が多い、休符と音符が入り乱れている、連符が多く、左右違った分割をしなくてはならない箇所が多い(例えば左の3連符に対して、右は5連符を入れるなど)。

8、楽曲の構成
曲はソナタ形式、ロンド、変奏曲、即興曲など、形式に則って作られているものが多い。全くのランダムな構成だと、構成美を追求するクラシック音楽としては散逸な印象になり、聴く側にも印象を残しにくい。ざっくり書くと、

♪ソナタ形式 A→B→AまたはAの発展形(調性が変化することもあり)
♪ロンド形式 A→B→A→C→A→D→A  や A→B→A→C→B→A など
♪変奏曲 A→Aの変形→Aの別の変形→Aのまた別の変形→また別の変形の繰り返し (変奏曲では、拍子、調性まで含め、元の曲が分からないほど変形される)
♪即興曲 上記のような形式に則って作られてはいないが、ある程度の構成は持つ。思いつくまま即興的に作られた曲という意味ではない。

曲にもよるが、ロンドは同じ部分が繰り返し登場するので、譜読みの手間が省ける可能性が高い。一方、変奏曲は、ずっと違うものに出くわし続けるので、譜読みに時間がかかる可能性が高い。長くても繰り返しが多いものは楽だし、逆もまた然り。

9、和声法か対位法か
一般的に、対位法で作曲されたものの方が弾きにくい。より左右の独立した動きが要求され、左手が右手のように使えないと苦労するからだ。対位法で作曲された代表的なものは、バッハのフーガなど。一方、ロマン派の楽曲の多くは、和声法中心である。多くの場合、右手がメロディ、左手が伴奏を担い、これが最も弾きやすい。逆に左手がメロディを受け持つ箇所が多いと、難易度が上がる。

10、音形や和声が古典的かどうか
古典的とは、バイエルやソナチネに登場するような、どちらかと言えば面白みのない、単純な和声の組み合わせである。こういった音形は譜読みも楽で、テクニック的にも弾きやすい。ハノンやツェルニーなどたくさんやってきた人は、初見で弾けてしまうかもしれない。一方、近・現代の作品は、大して音符が詰まっている訳でもないのに、手が音形を覚えるのに苦労する場合がある。楽譜を見てよく分からないようなら、作曲家や作曲時代で、おおよその判別が出来たりする。

他にも難易度を左右する細かい要素は様々あり、また当然曲が長いほど時間がかかり、難易度も上がる。実際弾いてみて初めて分かる難しさもある。そして、人によって、相性の良い曲、悪い曲があるのは事実。自由に選曲可能な場合は、なるべく性に合う選曲をすることが、練習を楽に、楽しくする鍵である。

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