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ヤバい古着屋のはなし。

さて、今夜は唐突に思い出した学生時代のファッションの話。

私は30代半ばなので、学生時代というともう15年くらい前の話になるのだが、その頃は古着が流行ってて、私の住んでいた地方都市にも古着屋がそれなりにあった。お金もあまりなくて、でも可愛い服を着てみたいという興味の出てきた学生の自分にはちょうどよかった。原宿には「ハンジロー」「WEGO」などの大規模な古着屋が並び、友達と東京へ行っては服を買う、というのが楽しみの一つになっていた。(そしてそこでエスニックと出会っていくわけである)

その中でも、一際変わった古着屋の話をしようと思う。今思い出すとほとんど怪談話みたいな、風変わりな店があった。

その店は、看板もない、営業時間も決まっていない、店舗は一坪あるかないかという極小。大学から駅に向かう途中の、路地の角にあった。あらかじめ友人が店主に「〇時に行きます」と連絡してくれていて、時間になるとおじさんが店で待っている。あるいは時間になると自転車でやってきて扉を開けてくれる。おじさんが普段何をしているのかも、営業形態も謎だった。

おじさん見た目も、ホームレスとまではいかないが、およそ服屋の店主とは思えない風貌だった。少し薄くなった白髪にシャツに短パン、サンダル。家からそのまま来ましたと言わんばかりの格好でやって来る。ちょっとボロい自転車に乗って。鞄とか持ってたんだろうか。ビニル袋に入れてたかも知れない。

おじさんもすごいが、一番すごいのはその店内で、店内には山積み(比喩ではなく)の服がビニル袋に詰められて積み上がり、天井まで届かんとしている。ゴミ屋敷みたいである。その山の一角におじさんはいつも鎮座していて、ビニル袋を上から投げて寄越す。その袋の中に何着も古着が詰まってて、その袋の中を漁って広げて探し出すスタイルだった。おじさんにあらかじめ「こういうワンピースが欲しい」と伝えておくとその類の袋を探しておいてくれるのだが、それ以外の袋も自由に開けて服を取り出してokだった。手が届かないところの袋はおじさんに投げてもらい、袋を開けては戻す、開けては戻すを繰り返して、文字通り「掘り出し物」に巡り会う。そんなお店だった。

そんな感じなので怪しさ100%だったが、古着は本当に可愛いものや珍しいものが多かった。ヨージヤマモトの昔のジャケットや、昭和のレトロワンピース。変な柄のシャツ。私好みのエスニックなものも。それらをおじさんが言い値で売ってくれる。それも決して高くない。ちょっとダメージがあると値引きしてくれる。そんな感じなのでとてもありがたい店だった。おじさんはマニアックな感じの人で、文学などにも詳しいようで、店を教えてくれた友人と乱歩の話をして盛り上がったりしていた。

今思うと本当に怪しい店なのだが、たまに夜にバイト帰りに通りがかると、灯りがついていて誰かが店の前で話しでいるのを見たので、(店内は服の山なので店先で服を選ぶ)まったくお客がいないということではないらしい。多分、私のように誰かから紹介されて、古着マニアが夜な夜な訪れる知る人ぞ知る店…みたいな感じで細々と続いているらしかった。

そんな感じで学生時代はその店に随分とお世話になったのだけど、卒業と同時に引っ越してしまったので、今ではどうなっているのか見当もつかない。そもそもあのおじさんは何者で、何であんな場所で店をしてたのかも謎だ。予想だけど本業ではなかったのだろう。夕方遅い時間からしか開けていなかったし、普段はどこかに行ってるという話をしてた。普段は何違う仕事をしているおじさんが、趣味で買い集めた服を少しばかり売っている感じだった。

今思い返すと、店の雰囲気もおじさんも、すべてがまるで幻だったんじゃないかと思うような。あるいは、あのおじさんは実は歳を取らないで、ずっとおじさんの姿で何十年も変わらずにあの路地で店をやってるのかも知れない。そんな想像をしてしまうような、ある種「妖怪」みたいな店だった。

さて、オチはないのだけど、こういう店に特攻していく若さっておもしろいものだと思う。学生時代、ほんの少しの異次元に触れに行っていたのかも知れない。今まで知らなかったものに触れたくて。そういう体験って痛いこともあるけど、これはただ懐かしい思い出。

おじさんはまだあそこにいるんだろうか。時間が止まったような、あの店の中で、今も自分で見つけたお宝の上に鎮座してるんだろうか。





普段は占いなどしてます。


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