見出し画像

スティーヴ・ウィンウッド バック・イン・ザ・ハイ・ライフ 1986 / Steve Winwood Back in the High Life

スティーブのマルチなプレイが開花

イギリス人のベテラン・アーティスト、スティーブ・ウィンウッドの4枚目のソロ・アルバム。
ロック、ブラックミュージック、民族音楽、AOR、スムース・ジャズなどをシンセサイザー、シーケンサー(デジタル楽器の演奏データ)、プログラミングされた音楽を高度に融合させた。コンテンポラリー(現代的)なアプローチに予算を投じて音楽の最前線に大きく舵を切った。1986年6月30日リリース。

全8曲中4曲がシングル・ヒット

豪華ゲストと実力派スタジオ・ミュージシャンと複数人の敏腕エンジニアを起用し、それらをひとつにまとめハイブリッドなサウンドに仕上がっている。MTVのミュージック・ビデオを丹念に制作され、ヘビー・ローテーションに乗り、トリプル・プラチナディスク、300万枚強のセールスを達成し見事リバイバルを果たした。

曲目

1 Higher Love
2 Take It as It Comes
3 Freedom Overspill
4 Back in the High Life Again
5 The Finer Things
6 Wake Me Up on Judgement Day
7 Split Decision
8 My Love's Leavin'


曲目感想

1 Higher Love

ファースト・シングルでビルボード・シングルチャート1位。
グラミー賞の最優秀レコード賞と最優秀男性ポップ・ボーカル・パフォーマンス賞を受賞している。

奥行きが有りクリアなイントロのパーカッションがとても印象的に始まる。
プログラミングのハンドラップから溌溂としたスティーブのボーカルがクールに口火を切る。
ほどなくクールで骨太なドラムが畳みかかって来るが、ニューヨークのスタジオ・ミュージシャン、ミッキー・カリーを起用。ブライアン・アダムスで収録されているドラムよりもソリッドで、1音のスネアの気持ち良い粒立ちと骨太さが際立っている。

中盤から女性黒人コーラスが入ってくるが、チャカ・カーンを贅沢に起用している。スティーブのホワイト・ソウルなボーカルと彼女とハモるコーラスが見事にハイブリッド。明快なメロディで何回聴いても飽きない。1980年代を代表する曲。


2 Take It as It Comes

ミッキー・カリーのソリッドなドラムがこの曲も受け継ぐ。
トランペットには超大物ランディ・ブレッカーが参入。
他、管楽器隊のホーン・セクションが、まるでタワー・オブ・パワーやマッスルショールズなど彷彿させ、当然の仕上がりかもしれないが、純度の高いキレのあるサウンド。
スティーブ自身のハモンド・オルガンと入り交じり極上で色褪せないソウルフルなイントロが聴ける。ボーカルも水を得て真骨頂。

曲終盤のギター・ソロはギブソンのレスポールのハムバッカー・サウンドから逆算されたフレーズの構成と音の骨太さは正に王道を行く。
チョーキングのトーンもレスポールというギターの性能を熟知しており、スティーブ・ウィンウッドはギターも上手い。

曲の展開もメロディも、本作品のベストテイクに上げたい。


3 Freedom Overspill

プログラミング・シンセサイザーとジェット音のサンプリングからハモンドオルガンが絡み、イントロも精緻に構築されている。
程なく2番手のスティーブ・フェローンのパワフルなドラミングが絡むと全体が引き締まる。
フェローンは1980年著名アーティストのドラムを数えきれないほど参加しており、ここで聴けるのは現場の最前線を渡り歩いて得たコンテンポラリーなドラム・サウンドだ。

そしてここでは敢えて異色と書くが、イーグルスのジョー・ウォルシュを起用している。一聴して分かるギブソンのサンバースト・レスポールのサウンドが歌のサビ部分から切り込んでくる。
ブロック・ポジションの指板スケールからなるスライド・ギターで、音数は少ないが、存在感あるカミソリのような切り口で効果的に攻めて来る。

スティーブのハモンド・オルガンのソロも相まって骨太なロック・サウンドが聴ける。とにかく全てがカッコ良い。1~3曲目までの作品の流れが非常に良い。


4 Back in the High Life Again

スティーブはここではマンドリンを弾いている。
ゲストに大物シンガー・ソングライターのジェームス・テイラー がサビ部分 ハーモニーとボーカルでこの曲のみ参加している。
ミディアム・テンポのバラードでメロディも分かりやすくて口ずさめる。
スティーブとジェームス・テイラー のハーモニーがあまりに自然で溶け込み過ぎている。


5 The Finer Things

シンセサイザー&シーケンサー・プログラミング、ドラムマシン・プログラミング主体に構築したアダルト・コンテンポラリー・サウンド。シングル・カット曲で、ビルボード・ホット100で8位を記録。

ジェイソン・コーサロとトム・ロード=アルジのミキシング、エンジニア構築手腕は評価され、グラミーの最優秀エンジニア・アルバム賞を受賞した。

バッキングのボーカルダン・ハートマン(ソングライター&プロデューサー)と
ジェームス・イングラム(R&Bシンガー)の2人を玄人目線でチョイス。贅沢に1曲のみで起用している。


6 Wake Me Up on Judgement Day

頻繁に活用されるプログラミング・シンセサイザーのイントロがオリエンタルな風靡で、程なく入るスティーブボーカルは溌溂と冴え渡る。
スタジオ・ミュージシャンのジョン・ロビンソンのドラムスは固めでラウド、1980年代風ドラムに装飾されているが、そこは気にすることなく曲に合ったソウルフルなドラミングが聴ける。レジェンド級プレイ。

さらにサビ部分からゲストで豪華すぎるナイル・ロジャースのカッティング・ギターが加わってくる。シックのトレード・マークの音。
コンプがかかってクリーンでシャープなプレイが聴けて満足度が高い。
マイルドでお手本のようなカッティングはエア・ギターをしたくなる。


7 Split Decision (S. Winwood, Joe Walsh)

ジョー・ウォルシュと共作。作品前半にあった骨太な王道クラシック・ロックを受け継ぐ後半のド級のハイライト。

ジョー・ウォルシュのサンバースト・王道レスポール。ほぼアンプ直の混じりっ気のないザ・ギブソン・サウンド。
ギター・ソロは少し空間系のエフェクターを気持ち軽めにかけてサンバースト・レスポールの極上の粘りの有るトーンが快感。

スティーブはハモンド・オルガンでギターに対抗する。そしてボーカルも、パワフルだ。迷いの無い思い切りの良さが伝わる。

そこからのジョン・ロビンソンのドラムス、こちらも手数の少ない直球のパワー・プレイがどっしりと土台を支えていて好感が持てる。

(極論承知で)これはブラインド・フェイス1986年バージョンだ。
これでゲスト無しのメンツ、シンプルな4人編成でバンドを組んで欲しい。クラブハウスぐらいの少なめのキャパで生演奏を体感し、これでもかという位「バンドの音」に打ちひしがれたい。LAのベイクド・ポテトとかのハコでカバー曲中心のシークレット・ギグなんかあった日には、妄想が止まらない。。

この骨太なロックの覚醒が実は「裏テーマ」であったと断言したい。


8 My Love's Leavin

R&B調のバラード・ナンバー。最後に相応しいスムース・ジャズ的な聴き方も充分できる。
スローテンポで噛みしめたスティーブのボーカル主体の曲は、ハイレベルで最後に相応しいエンディングとなっている。


総論

多種多様な音楽で全体が完成されている。
成熟されたソング・ライティングと的確な演奏が首尾一貫している。

プロデューサーのラス・ティテルマンは「彼に何が足りないのか」を見抜いていた。

これまでどことなく希薄だった「根底に流れる野生のロック・スピリッツ」を覚醒させる必要があった。ジャストなタイミングが本作であった。

それを今一度当事者が認識することが出来たのが聴き手にも潜在的に伝わり、大きなセールスにつながったと見ている。

どんなテクノロジーでも、どんなジャンルを盛り込んでも、どんなゲストを呼んだとしても、そしてどんなに派手にしても音楽の根底は崩れなかった。


1980年代を代表するハイレベルな名盤。


終わり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?