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#103 イン・イン『マウント・マツ』

服部さんへ

 ずっと好きだった夏が嫌いになりそうな、異様な暑さの中、カサンドラ・ジェンキンスの新作紹介ありがとうございます。いや〜、涼やかなウィスパー・ヴォイスが気持ちいいですね〜。僕は、スティーナ・ノルデンスタムという北欧のシンガー・ソングライターが好きなのですが、サウンド感も含め、世代は違えど通じるものを感じました。
 1stアルバムが2017年のようなので、たとえばこれまた僕が好きなビーバドゥービーなんかと世代も近そうだし、カサンドラ・ジェンキンスも絶対にグランジ/オルタナティヴ・ロックに大きな影響を受けていると思います。ギター・ロックなM-2やM-5なんて、今こういう音を鳴らしてくれて、ありがとうって感じ。
 かと思えば、またまた個人的に好きなエンヤを彷彿させるM-7のような楽曲もあり、聴きどころたっぷり。真夏の素敵な出会いとなりました。
 さて今回僕が取り上げるのは、オランダのバンド、イン・インでございます。彼らとも、本当に出会えてよかった〜。


イン・イン『マウント・マツ』

 不快指数200パーの暑さゆえ、僕も今回は気持ちだけでも涼しくなるような作品をと、クルアンピンを取り上げるつもりだったのだけど、配信でFUJI ROCKを観て、ぐぐぐっときてしまったので、同じインスト中心のバンドでクルアンピンにも音楽性が近い、イン・インの最新作をプッシュしたい。
 FUJI ROCKで初来日を果たしたイン・インの舞台は、ピースフルな会場群の中でもとりわけピースフルな、FIELD OF HEAVEN 。何がぐぐぐって、メンバーがスマホのメモを見ながら、どれだけ日本でライヴすることを夢見てきたか、どれだけ今ここにいることがうれしいかを、日本語でたどたどしくも一生懸命、満面の笑顔で伝えていたこと。キャッチ・フレーズまで日本語でつけたメンバー紹介まで、ひと言ずつかみしめるように語る姿に、涙が出そうになった。FUJI ROCKのあの空気感の中だったら、間違いなく嗚咽ものだったと思う。
 その彼らの新作がまた、日本人との親和性がめちゃくちゃ高い、極東インスト・ロック/ポップとでも呼ぶべき逸品なのだ。「卯年」に「寅年」、「子守唄」「東京ディスコ」「佐野の粘り強さ」「松の高みを目指す」(以上邦題)といった曲名もお見事なら、クラフトワークにYMO、ファンク、サーフ・ロック、ディスコ、東洋歌謡風……と、節操がないようで、なぜか絶妙にバランスが取れたサウンドは、まさに唯一無二。その中から、高橋幸宏へのオマージュだという「タカハシのタイミング」と、好対照なチル曲「ディナーのための指圧」の個人的推し2曲をアップしておきたい。いやしかし、ナイスなネーミング。

 繰り返しますが、オランダの人ですよ、全員。日本のどこがそれほど魅力的なのかは、本人たちに聞いてみないことにはわからないけれど、こんなバンドが出てきてくれるところが、デジタルネイティヴ世代の音楽の面白さなのかもしれない。クルアンピンともども、亜熱帯化したイヤ〜な夏を乗り切る最高のパートナーになってくれそうだ。
                              鈴木宏和


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