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#89 ヴァンパイア・ウィークエンド『オンリー・ゴッド・ワズ・アバヴ・アス』

服部さんへ

 前回のビヨンセの曲名表記、そうだったんですね。全然気づきませんでした……。そしてダイアン・バーチの新作紹介、ありがとうございます。とてもいいですね。安心して、信頼して身も心も委ねられる、上質のシンガー・ソングライター作品だと思うし、こういう音楽は時代を問わないと思います。
 などと書きながら矛盾するようですが、何がいいって、おっしゃる通り70年代の空気感なんです。匂いや、香りとも呼べそうな。キャロル・キングしかり、ジェームス・テイラーやジャクソン・ブラウンしかり、この2020年代に聴いても、まったく色褪せていないというか、むしろ新鮮な響きさえ感じます。ダイアン・バーチは、そういう先達たちの正統なDNAを受け継いだ、愛すべき歌うたいだと思います。最近だとケイシー・マスグレイヴスなんかもそうですが、いい曲を書くこと、いい歌を歌うことを、ナチュラルにやっている人には、年のせいか妙に共感してしまいます。
 さて、僕が今回取り上げるのは、米ニューヨークの文字通りのオルタナ・バンド、ヴァンパイア・ウィークエンドの5年ぶり新作です。


ヴァンパイア・ウィークエンド『オンリー・ゴッド・ワズ・アバヴ・アス』

 季節性の鬱というものがあるらしい。僕が実際にそうのか、単にそういう性質というか、心の傾向があるということなのかは、よくわからないが、秋冬はどうも気分が沈みがちになってしまう。そして今ぐらいの季節になると、靄が晴れたかのようにスッキリしてくるのだ。
 そんな時期に必ず聴きたくなる音楽のひとつが、ヴァンパイア・ウィークエンド。僕にはとてもナイスなタイミングで、5年ぶりとなるニュー・アルバムが届いた。
 まずは「Ice Cream Piano」で、一気にテンションがアップ。このバンドの魅力を濃縮還元してアップデートしたような、ワクワク感満載のオープナーで、久々の再会の祝福に持ってこいだ。

 音楽エリート揃いという出自に関しては、自分の性分的に好きではないが、アフロにカリプソ、パンク、オーケストラ、ソウルにサイケと、多彩な衣装を見事な着こなしでまとって、とろけるようなポップ・ワールドにいざなうことができるのは、その才気と卓抜な技術を持ってこそか。
 キャッチーでありつつビター・スウィートで、メランコリアも漂うエンディング「Hope」まで、あっという間の47分。バンドのカラー的にはシャンパン、あるいはスパークリング・ワインといったところかもしれないが、僕はハイボールでもホッピーでも合わせられるもんね。なんの自慢だ!?                              

                              鈴木宏和


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