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一年半越しのたいしのスクイズと、それぞれの成長曲線と【11/6中日戦○】

虫明 麻衣（Mai Mushiake）

たいしのスクイズの構えを見ながら、この日のことを思い出していた。

この日私は、PTAで遅くまで学校に残っていた。むすめの保育園のお時間時間にすら間に合わなくて、夫は代わりに迎えにいってくれなくて、保育園には急遽延長をお願いして、息子は一人で家で待っていて、試合開始時刻はどんどんすぎて行って、何をやってるんだ私は、と、なんとも言えないやるせない気持ちになっていた。

久々に「組織の理不尽」みたいなものにぶちあたって、帰りのタクシーでちょっと涙ぐみさえした。というか、こどもたちを待たせていて明らかに「帰らなきゃいけない場面」だったのに、「帰ります」と言えなかった自分がとにかく不甲斐なかったのだ。こどもたちを出産してからは、会社でもなんでもいつだって、「帰ります」と言えることを大事にしてきたのに、まさか初めてのPTAでそれができないとは、と、自分が情けなくて仕方なかったのだ。

タクシーを飛び降りて急いでむすめを迎えに行くと、もう他のお友達が誰もいない教室で、むすめは数人の先生に囲まれてにこにこしていた。

野球好きの先生が自分のスマホで速報をチェックしながら、むすめに「まだ同点だから大丈夫だよ！」と言って実況をしてくれていた。「青木の番だよ！」と、先生が言うと、「あれ、きのうあおきけがしたはずなのにもうでてるの！？」とかむすめが返して、「ほんとに詳しいね！！」と、先生たちが笑っていた。まったくなんという愛に囲まれているんだろうかこの子は、と、私は思った。一人でなんかぜったいに子育てできない。親だけじゃない愛情が注がれることは、こんなにも心強い。

「ありがとう先生！！」と抱きつきそうになりながらお礼を言い、園を後にし、急いで家に帰り、一人で待つ息子に遅くなってごめんね！！！と言うと、「いいよいいよ全然大丈夫！」と、息子は笑って言ってくれた。

そういう日だった。そういう日の、試合だった。

神宮についた時、もうずいぶん試合は進んでいて、席に座るのも一苦労だったけれど、それでも目の前に球場の景色が広がった瞬間、今日のしんどかったものが吹き飛んで行く感じがした。いつもそうだ、ここに来ると、その日のあらゆるものが一度、リセットされる。私は毎日毎日、そうして生きているのかもしれない。そう思った。

試合は0-2のまま、さくさく終わろうとしていた。それでも終盤に2点を追いつき、9回裏、1アウト3塁、サヨナラの大チャンスで、たいしはセーフティスクイズの構えをみせ、そして、ゲッツーに終わった。

打たせてあげたかった。と、今でも思う。でもそれは、もう過ぎたことだ。

だけどみんな、たくさん失敗もして、大きくなっていく。誰だってそうだ。なんだってそうだ。今日悔しかったことを、できなかったことを、不甲斐なかったことを、うなだれたことを、糧にして、次はものすごいのを打って欲しいなと思う。たいしにはそれができる。それだけの力が絶対にある。

チャンスはピンチで、ピンチはチャンスだ。

私はいつだって、どんな時だって、ここで座り、選手たちに祈ることしかできない。たいしがこの悔しさを乗り越えてゆくことを、その若さでまた思いっきりプレーできることを、それを信じて、ただじっと待つだけだ。

たいしは今日、10回表、一死1,3塁の場面で、セーフティスクイズを決めた。それが、決勝点となり、ヤクルトは勝った。

それは一年半越しに成功させたスクイズだ、と、思う。そして今だってたいしは、「でも打たせてあげたい」と、そう思う選手だ。

あれだけ最初にもやもやからスタートしたPTA活動は、終わってみれば楽しいことがたくさんあった。同じ思いの人がたくさんいることを知った。そしてこの状況下で、PTAの組織自体もまた大きく変わろうとしている（元に戻ることもあるかもしれないけど）。

時間はかかるかもしれない、みんな劇的に変わるわけじゃないかもしれない、でもあの日の悔しさが、時間がかかってもいつか、晴れることだってある。少しずつ少しずつ、成長していく選手だっている。組織だって少しずつ、変わっていける。

たいしは、ロマンの塊なのだと私は今でも思う。まだまだ大きく成長していけると、一年半越しに今も思う。そりゃそろそろその「成長した姿」でいて欲しいけれども、でも、みんながみんな同じ成長曲線を描くわけではない。それぞれの曲線を、たどっていけばいい。

ゆっくりでいい。いつかその場面で、大きなホームランを打つ選手になってほしい。そんな姿を信じて応援していたい、と思う。

次はスクイズじゃなくて、サヨナラホームランを打つたいしが見られますように。大空に大志を抱いて、まだまだ大きくはばたけますように。


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