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【8/26横浜戦○】宮古島で、変わるものと変わらないもの

むすめと二人で宮古島へ来ている。私にとってこの島はなんというか、「ふるさと」みたいなもので、毎年毎年やってきては「ほっとする」という感覚を味わう。そのたび、新しいものができていて(マクドができたり、ドンキホーテができたり、今年はなんと無印ができていた)はっと驚くけれど、でもこの島に初めてきたときから17年くらい、なにも変わらないものもたくさんある。

かわらないもの。オリオンビール。

あちこち行くのが好きで、あまり落ち着きのない私にとって、毎年毎年同じ場所にやってきて、一週間とか二週間とか過ごすというのは、結構貴重な時間だったのだなと、今になって思う。そういう場所って、ほかにあまりない。変わりゆく世界と、そして変わっていく自分を、この島は全部見続けてきたのだなと、なんとなくそんなふうに思う。

数年前から、ここにポケットWi-Fiをレンタルして持ってくるようになった。何をかくそう、ヤクルトの試合を見るためである。この島に初めて来た22歳の頃は野球のやの字も知らなかったもだから、ここで出会った人たちはみんなえらく驚いている。なんせ、なじみのバーにだってポケットWiFiを持ち込んでスマホで試合を見ていたのだから。

今年は、ホテルの近くのパイナガマビーチにキャンプ用のチェアと簡単な机を持ち込み、むすめと二人で軽い夕飯を食べて私はビールを飲みながら、DAZNをつけた。宮古島もいつのまにかWi-Fiがとても整備されたのと、スマホの回線でも安定してDAZNが見られるようになったので、ポケットWiFiももういらなくなった。しかし必死だな、ヤクルトを見ることに関して。

沈むゆく太陽を見ながら、ビールを飲む。どこかで三線を弾きながら歌う声が聞こえる。それは、波の音とともに耳に届く。この時間はもう、17年前からずっと変わらない、宮古の景色だ。

変わったのは、そこに、私が見ている野球中継の音が加わったことだ。

なかなか安定しないDAZNの回線が途切れ、しばらくしてからまたつながると、アナウンサーは大きな声で何かを叫んでいた。画面には、ゆっくりと走る村上くんの姿が映っている。「いや…うそやん…」と、私はまたつぶやく。天ぷらを頬張るむすめに「村上さまがまた打ったっぽいんやけど…」と言うと、「ええええ!!!」と、大きな声を出して笑った。

なかなか、チャンスをいかせなかった。小さなミスも重なり、スコアボードには0が刻まれ続けた。今日も流れは向こうへ行っちゃうんじゃないかと、少なからず私は不安に思った。村上くんの3ランと、オスナの2ランがあった直後、戸柱にホームランを打たれ、そして牧に2ランを打たれたときにその不安はさらに大きくなった。

だけど、若き4番はそんな不安を、バット1本ではねのけていく。その直後、二打席連続となるソロホームランを放った。対空時間の長い長いそのホームランが、ゆっくりとスタンドに入っていくのを、私はホテルでビニールシートを片付けながら見た。

ぜんぶ、ぜんぶ跳ね返していくんだな。と、私は思った。不安も、重圧も、ほかのいろんなことも、ぜんぶそのバットで。

変わっていくものと、かわらないものがある。私がこの島に初めてきたときは、まだ5歳くらいだったむねちゃんは、今、チームを優勝させるために150本目のホームランを打つ。あの頃、来年からちゃんとした社会人としてやっていけるんだろうかとびびりまくっていた私は、今…いや、あまり「ちゃんとした社会人」にはなっていないけれど、ぜんぜんなっていないけれど、まあ、一応がんばって仕事はしている。

変わっていく中で、しんどいこともある。かなりある。うまくいかないこともある。山田哲人が打てないことだってある。でも、バットを振り続ける限り、少しずつまたうまくいく日がやってくる。山田哲人が苦しみながらセンター前に打ったヒットが、村上くんの3ランにつながることがある。たぶん、日々はそういうことの繰り返しなのだ。そして私はこの島で少しだけ、またリセットをする。

ベランダに出て、波の音を聞く。遠くで船が出る音がする。大きく息を吸い込んで、明日も勝てますように、と祈る。村上くんとてっぱちが、そろって打てますように。夏の延長戦を感じながら、私はそう思う。

マシュマロおへんじ

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