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何度も何度も私はそこで、ぐっちが打てますようにと祈る、祈りたい。【11/8巨人戦◯】

むすめと二人でバインミーのお店に並んでいると、大きな歓声と拍手が聞こえた。「さかもってぃー打ったんじゃない!?」と、むすめが言う。(なぜかむすめは坂本を「さかもってぃー」と呼ぶ。)

「こりゃ打ったね」と、言いながら、私はバインミーとノンアルコールビールを注文した。なんと、東京ドームではビールが飲めなかったのだ。今年は全然ドームへ行っていなかったから知らなかった。

さらに収容人数を増やしているということもつゆ知らず、ほぼ満員のお客さんにびっくりした。ドーム最終戦ということもあってか、外野席寄りの三塁側内野席の2階席(…なのか3階席なのか4階席なのかいまだによくわかっていないのだけれど、とにかく上の方)は、すっかりオレンジに染まっていた。隣の席の巨人ファンの人たちにひたすら謝りながら、バインミーを抱えてなんとか席につく。

ヤクルトはサクサクと攻撃を終え、サクサクと坂本にヒットを許してた。「・・・・・・ヤクルトなんもしてないよ・・・?」と、むすめが言う。「そういうこと言わないの・・・なんもしてないけど・・・」と、言いながら、私はぬるくなったノンアルコールビールを飲み、坂本に拍手を送る。

バインミー食べたいな、と思ってギリギリに取ったチケットだったけど、食べたかったアボカドのバインミーは売り切れていて、豚肉のバインミーにはちょっと苦手なパテが入っていた。(好きな人はぜったい好きです、私がパテとか鶏のレバーペーストとかが苦手なだけです。)お客さんがいっぱいになることは喜ばしいことだけれども、やっぱり身動きは取りづらいし、まったり観戦とはいかない。相変わらず巨人にはやられ放題だし、このやるせなさをビールでごまかすこともできない。

なかなかうまくいかない。そう、なかなかうまくいかないのだ。

それでも、今季最初で最後のドームだから、好きなもの食べていいよとむすめを甘やかし、チュロスを買って(おいしいよねドームのチュロス)、一緒に食べていたら、ネクストバッターズサークルに、小さくぐっちが見えた。

三塁側だと、ぐっちは「こっちを向いて」立つ。そういえば今季、初めて神宮以外の球場で観戦したので、初めて「こっちを向いて」立つぐっちを見た。

少し久々に見るぐっちの打席に、ちょっとワクワクした。やっぱり野球は生で見てこそだよね、と、メッツグレープフルーツ(ジュースである。)を飲みながら私は思った。まったく調子がいい。

ところが、二球目を避けようとしたぐっちは、「ゔ!!!!」と、大きな呻き声をあげて、その場に倒れこんだ。広いドームの上の方からは、何が起こったのか、どこに当たったのかもわからない。ただ、ほぼ満員でも歓声の少ないドームに、ぐっちの声だけが響いた。

足を引きずるようにして、抱えられながら、ぐっちはベンチに帰っていった。映像を確認することも怖くてできず、小さな声でむすめに「大丈夫かな…」と、話しかけるのが精一杯だった。

去年の死球のこと、痛みを抱えて戻ろうとしたこと、でも痛みが消えなかったこと、今年もまだ痛みを抱えたままそこに立ち続けていたこと。あらゆることを思い出す。それでもそこに立ち続けようとしたぐっちの気持ちを考える。

「なんでこんなことばっかり」と、思う。「もうそういうのはなくていい」と思う。あんまりだ。試練としては、それはあんまりにも厳しすぎる。ぐっちがなにかしたわけじゃないのに。そう思う。

何も言えず試合を見ていると、続く塩見は、ヒットを打った。そして満塁の場面で、コータローはなんと、「人生で初めての」満塁ホームランを放った。

気持ちの整理がつかないまま、ゆっくりと走る(ゆっくりと走ってるのにムーチョに追いつきそうな)コータローを見ていた。

人生にはほんとうに、予期せぬことが起こる。よくも、わるくも。

いいことばかりじゃない。誰かを応援する限り、しんどい思いをする日もある。野球をする限り、思わぬ怪我をする日も、きついトレーニングに耐えなきゃいけない日もある。

だけど、それでも、みんなそこから這い上がろうとする。それでも、素晴らしいことだってあるのだと、そう信じながら。

ぐっちが怪我をした日も、一軍を離れた日も、戻ってきた日も、打てなかった日も、二軍で過ごした日も、もう一度一軍に戻ってきた日も、ホームランを打った日も、お立ち台に立った日も、「こんな日があってもええんやないかなと思います」と言った日も、いつでも祈っていたように、今日だってまた、「ぐっちが打てますように」と祈っている。

いつだってぐっちは、そこに戻ろうとしてきた。そして、痛みを抱えながら、戻ってきた。

だから私は何度でも、何度でもここで、ぐっちがまたここに戻ってきますように、と、そう祈る。そう、祈っていたい。

誰かを好きになることは、痛みと喜びで溢れている。私はそれをまた、思い出す。

どうかどうか、もうこれ以上大きな痛みがぐっちを襲いませんように。何度でも、ぐっちがそこに戻ってきますように。ぐっちが打てますように。


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